嘘だろッ!8 嘘だろッ目次

 
「なあ、吉田、一つ変なこと訊いていいか?」 
 
 こいつは自分のいとこの性癖を知っているのだろうか? 
 まさかな…知っていたら俺を紹介するはずがない。

「彼女とは上手くいってるのか?」
 
 二人でホテルでの展示会へ向かう電車の中である。
 吉田は宝石を扱う第一課、俺は羽毛布団の第二課だが同期ということで、羽毛布団と宝石の両方を扱う規模の大きい展示会では二人揃ってというパターンが多い。

「お陰様で、楽しい蜂蜜ライフを送らせて頂いてますよ」
「蜂蜜ライフ?」
「メチャクチャ、甘いってことよ」
「あのさ、その…彼女…なんていうかさぁ、ミルク好きか?」
「牛乳は好きみたいだけど」
「いや、そのミルクじゃなくて…ソーセージがあるだろ」
「朝食の話か?」
「じゃ、なくてさぁ、分かるだろ! ナマコだよ。ナマコを口に入れるだろ。そこからミルクがでるだろ」
「ナマコって、ミルクを出すのか? 拓巳面白いこと知ってるな。でも、綾ちゃんがナマコのミルク好きかどうかなんて知らない」
 
 彼女は綾ちゃんっていうのか。へえ〜、ってそんなこと知りたいんじゃない!

「吉田、婉曲という言葉を知っているか? 比喩という言葉も知っているよな? いい加減分かってくれよぅ。アレだよ、あれ」
「あのなぁ、拓巳。朝から変なクイズするなよ。訊きたいことがあるなら男らしく直球でどうぞ。俺回りくどいの駄目だって知ってるだろ」
 
 パラパラと週刊誌を捲りながら、面倒くさそうに吉田が呟いた。
 俺も男だ。単刀直入に訊いてやる!

「フェラだよフェラ。お前の綾ちゅんはお前のナマコも精液を飲むのも好きかって訊いてるんだっ!」
 
 バコーンと、飛んできたのは質問の答えではなく雑誌だった。
 吉田が真っ赤な顔をしている。怒らせた…んだろうな。

「拓巳っ、お前な、公共の場所で変なこと叫ぶなっ! 耳かせ耳、」
 
 耳を引っ張られた。吉田の息がくすぐったい。

『綾ちゃんはそりゃあ、上手いぞ。俺が仕込んだし。風俗嬢の舌使いから吸い込みテクまで全て教えたし。アレも飲んでくれる。コレで満足か?』
「お前達エグイことしてるんだな。普通の恋人同士でもするのか…」
「エグイってなんだよ。別にアレぐらい普通だろ。してくれない女もいるらしいけど」
 
 耳は解放されたが、吉田の力が強かったので耳全体がジンジンと痛む。

「飲むのは分かったけど、その、好きなのか? マズイだろ?」
「好き嫌いじゃないだろう。愛情の問題じゃないの? お前朝からおかしいよ。何かあった?」
 
 大ありだよっ! 

「いやあ、ちょっと友達の友達が……、」
「友達の友達?」
「初めて飲んだらしいんだけど」
 
 吉田が瞬きをパチパチと二回し「それで、」と肩に手を掛けてきた。

「腹を下したらしい。あのミルクは腹を下したりする成分が入っているのかな、って心配してたから」
「そうか、その友達は腹を下したか。それは個人差があるんだと思う。綾ちゃんは肌が潤うって言っているけど。まあ、それも根拠は怪しいな。普通の牛乳だって駄目なヤツもいるだろ?」
「そうか、そうだよな。個人差か…」
 
 毎回腹を下すのかと思うと憂鬱になってきた。

「その友達の友達へ、俺からの助言だ。その前に正●丸飲んでおけ。まあ、その体質、ある意味手間が省けていいとは思うんだけど」
「手間?」
「はは、気にするな。頑張れ!」
 
 肩に置かれた手がバンバンと応援を示す。

「俺を応援されても…」
「だから、その友達の友達の代わりに受けてろ。当たり前だろ。拓巳のはずないだろ、ははは」
 
 実は俺なんだよ〜と言えるはずもなく、俺も一緒に「ははは」と笑った。

「またその友達の友達のことで何かあったら俺に訊いてくれ。力になるから」
 
 吉田にこんな親切なところがあるとは、少しだけ見直した。

 
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