嘘だろッ!7 嘘だろッ目次 |
「されたことがなければ分からないと思いますので、舌は下顎に付けておいて下さい。勝手に動きますので」 天道寺は言葉通り、勝手に動いた。 俺が『手伝う』と言ったことをいいことに、何の遠慮もなかった。 頭の中でソーセージソーセージ、と連呼しているうちに、やけにリアルなフランクフルトソーセージが目の裏に浮かび、そして、それが先程目にしたばかりの左右に揺れる天道寺の一物へと変化した。 そもそも無理な暗示だったのだ。 ソーセージは、歯を立てて食べるもので、口内を滑るものではない。 喉の奥まで突かれ嘔吐(えず)きそうになる。行ったりきたりのピストン運動をするソーセージなんかあるものか! そんな食べ方ないはずだ。かみ砕くか、そのまま飲み込むか、ズズッと啜るか、日本人の食し方なんて決まっている。 口の中を物体が行き来するなんてこと、普通経験しないだろう。 しかも、このブツは、生モノで感じたくなくてもピクピクと脈打っているのが分かるし、段々口の中に苦い味が広がってくるし……鼻腔には天道寺の雄の匂いが漂ってくるし… ソーセージという可愛い物じゃない、ナマコだ。そうだ、ナマコだっ、ナマコに俺は口を犯されているんだ。 と、最悪な発想に辿り着いてしまった。 「涎がイヤらしいく光ってますね。顎怠いですか? あぁあ、気持ちいいです。久野君の口の温度は丁度いいです。滑り具合も最高です。目を閉じている顔が感じているみたいで、卑猥です…あぁ、イきそうです」 解説なんていらない、早く終わってくれ。苦しい…もう、いい加減にしてくれよっ。 頭掴んで揺らすなっ! ピクピクが激しくなった! …てことは…… 「飲んで下さい…うっ」 ピュッ、ピュッ、ピュッと咽頭に感じるものがあり、青臭い苦みばしったマズイものが口中に広がった。 これが精液の味なんだ、と思った瞬間、ズルリとナマコは引き抜かれた。 飲み込む勇気がない。 処理に困って口に含んだまま溢れないように唇を固く閉じ、瞼をゆっくりと開いた。萎(しぼ)んでもなお、俺のモノよりはデカイやつの一物が目の前にぶら下がっていた。 ゆっくりと顔をあげ、 「ん〜んんん」 飲めないと、口を閉じたまま訴えた。 「何ですか? 美味しい? 良かったです」 違うっ! 不味(まず)くて飲めないって言っているんだよっ! 唾液が分泌してきて精液と混ざり、混合物の分量が増えていく。 唾液対精液だと、完全に唾液の負けで、精液の味のみ感じるから、量が増えるということは、精液の量が増えるのと同じことだった。 「んんんんん」 「ハミングの練習ですか」 このヤロウ、分かってて言ってるだろ! 「そんなに口の中で味あわなくても…早く嚥下したらどうです? 美味しい酒でも用意しますよ」 そうだっ、下手物食いのレポーターに比べればこんなものどうってことないはずだ。 蛙を生で丸呑みするのと比べれば…サッサと胃袋に流して、酒で消毒しちまえっ。 ゴクリ。 記念すべき日というのだろうか? 二十四年の人生で、今日俺は男の精液を飲むという偉業(?)を成し遂げた。 誰か俺を褒め称えてくれっ! 俺の心の叫びが聞こえたのだろうか? 「初めてにしては良かったですよ。飲んでくれてありがとう」 天道寺に褒められた。 「明日は舌使いを教えましょう」 明日、ッてなんだ? 毎日やらせるつもりなのか? はは、まさか… 青くなる俺の前で、天道寺はシルク地のベージュのパジャマに身を包み、何事もなかったように俺の為に酒の用意を始めた。 自分の身体に何が合うか合わないかなんて、それを初めて経験してみないと分からないものだ。 俺は初めて男の精液を飲み込んだ晩、激しく腹を壊した。 精液は身体に害はないはずだと、夜中に何度もトイレに駆け込む俺に薬を差しだしながら天道寺は俺に言ったが、精液しか考えられない。 |