嘘だろッ!55 嘘だろッ目次 |
「…すっかり、消えた俺の痕を…付けてあげましょう」 天道寺の舌が、首を這い降り、左肩へと流れる。 「んぁあっ!」 肩から鎖骨部分にかけて、天道寺の犬歯が食い込んだ。 「痛いですか?」 天道寺の唇には、俺の血が付いていた。 長髪が揺れ、耳のピアスが光り、切れ長の目が輝き、美しい吸血鬼か悪魔のようだ。 俺の手首の傷を見て、後悔の涙を見せた男とは別人だ。 ズキズキする痛みが、餌に戻れたことを俺に実感させた。 「…痛い…痛くて…嬉しい…」 「拓巳の血は、本当に甘い。血だけじゃなく、体液全てが甘いのです」 噛み痕から、滲み出る血を天道寺の舌が舐める。 「…噛んで…もっと…」 「だったら、違う場所を噛んであげましょう」 上半身に残っていたシャツを天道寺が引き裂いた。そして、胸の尖りを千切れるかと思うほど噛まれた。 「あうっ…うっ…」 「この餌は、痛みが好きなM気質のようです。痛みが、快感になるのですね」 その通りかもしれない。天道寺から痛みを与えれると、痛みとは違う電流が走る。 「…天道寺さん…限定だから…」 「…可愛いことを……激しく、突いてあげましょう」 天道寺の腰の動きが激しくなり、俺は喘ぎ声だけで、感じていることを表現した。 激しい快感が、俺から言葉を奪っていた。 「ダメですよ…イかせません」 天道寺の手が俺の根元を握る。 「…くっ、…」 「…俺と、一緒にです…」 首を縦に振って応えた。 「は、…はっ…、拓巳…、」 天道寺から、汗が飛ぶ。 前を堰き止められた苦しさと、天道寺の雄が与える喜びで、俺の意識は徐々に薄れていく。 白く霞がかかる視界で、天道寺の汗が、キラキラとダイヤのように輝きを放っていた。 「…一緒にっ…はぁっ…」 解放され俺から一気に吹き出した液体が腹に掛かるのと同時に内部には、天道寺の放出したモノの熱を感じた。 意識半分、天道寺に繰り返し、好きだ、好きだと、呟いていた。 俺の上に天道寺が覆い被さり、キスをしながら、頭を撫でてくれる。指一本動かせないほど、俺はぐったりとしていた。 昨夜の課長との行為と、フェスタでの緊張と、ここでのやりとり全てが一気に疲労となって押し寄せていた。 天道寺の体温を布団代わりに、眠りに吸い込まれていった。 *** 長い夢を見ていた。 ボロアパートが火事になり、俺の全財産が灰になった。 無一文の俺は男と暮らすことになり、その男に恋をしたらしい。 だけど、その男は俺の目の前で、俺の苦手な上司と情事を繰り広げている。 やめてくれ、やめてくれと、泣き叫ぶのに、その男はやめようとはしない。 『君が俺の言うことを全てきいてくれるなら、やめよう』 と男は言う。 『全てをきくから、やめてくれ』という俺の懇願に、『その言葉を待ってたよ』 と男が微笑んだ。 『俺に飼われなさい。俺のペットになりなさい。俺の餌になりなさい。俺は君の為に、マルキ・ド・サドになってあげましょう』 その男はニコリ、微笑んだ。 |