嘘だろッ!51 嘘だろッ目次


 「あ〜あ、ホント、面倒くさい奴等だ。雪も雪だが、久野、お前が一番悪い。どうして、そう鈍感なんだ。だから、アホだと言われるんだ。よくまあ、そんなんで、数字が取れるよな。やはり、顔だけしか、取り柄だない」
「拓巳を侮辱するなっ!」

 俺が怒るところだと思うが、天道寺が声をあげた。

「はいはい。過去の反省を含め、雪の為に結構俺だって今回は力になってやってるぞ? 違うか?」
「…条件出したくせに。しかも、手まで出した…最低男が、何言ってるんだ」

 この二人の間に、俺に内緒のことがあるらしい。

「久野、こいつは、お前の為に俺にケツを差し出したんだ」
「真司っ! 言うなっ!」

 どういうことだ?

「お前が俺の所に転がり込むことが、決まった時に、俺が迫ったんだ。俺は狡い男だからな。雪は面倒くさい男だが、身体の相性は悪くない。だから、お前を餌に迫ったんだよ。心配だったら、俺に身体を差し出せって。そうしたら、絶対久野には手を出さないって。お前は元々、俺の眼中外だが、雪が過剰に心配してたから、使えるなと思って」
「…なに、ソレ…嘘だろ……ホントなのか?」
「違うっ! 真司の言うことなんか、全部でたらめだっ」
「信じる信じないは久野の勝手だ。好きにしろ。だけど、雪がいくら久野を想っても久野の為に身体を張っても、こいつは鈍すぎる。お前が傷つくだけだぞ? 俺にしとけ。寄りを戻すのも悪くない。どうせ、こいつは男だからかと自分はホモじゃないとか、ぐだぐだ言って、自分の感情に気付かないんだ。証明してやる」

 課長が、片手で天道寺の手首を掴んだまま、もう片方の手で、俺の顎を掴んだ。

「雪は、お前が好きらしい。お前はどうなんだ? 久野は、雪が好きか? 恋愛感情あるのか?」
「……」

 一番考えたくないことを、突き付けられた。

「即答できないんだろ。それが、お前の鈍さでアホな所なんだよ。答えは俺の方が知っている。だけど、教えてなんかやらない。俺は根性悪だからな。よ〜く、今から目にすることで、考えろ。気付け」

 課長が、天道寺の背に手を置き、自分の方へ天道寺の身体を引き寄せた。
 逃れようと抵抗すると、捩り上げている手首に更に回転を加えた。天道寺の顔が苦痛に歪む。

「雪は空手の有段者だからな。油断すると、こっちがヤバイ。悪く思うな」
「放せっ、このやろうっ!」
「今から、俺とお前はこいつの前でセックスするんだ」

 俺と天道寺、二人同時に、「セックスッ!」と叫んだ。

「どうして、真司とセックスしなきゃ、ならないんだ。条件も何もない! 放せっ!」
「俺とのセックスは気持ちイイだろうが。悪いが、久野よりは上手いぜ。久野は、雪のこと、どうでもいいんだよ。だったら、問題ないだろ。大人のセックスを見せつけてやろうじゃないか」
「嫌だっ! 俺には拒む権利がある」 
「それが、ないんだよ、雪。お前が拒めば、久野は俺が連れて帰る。また、俺が抱くかもな。こいつ、アホだから、直ぐ股開くかもしれないぞ」
「連れて帰れるはずないだろ。鍵は俺が持ってるんだっ! 拓巳はお前の側には置かないっ!」

 課長まで、俺を尻軽女みたいに言いやがって、どういうつもりだよ!

「お前が拒めば、俺は警察に通報する。うちの社員が、いかれたデザイナーに拘束されてますってな。そうしたら、お前は犯罪者だ。二度と久野と会えなくなるかもしれないぞ。いいのか? どうする? 大人しく抱かれろ」

 天道寺の身体からガクンと力が抜けた。

「…好きにしろ」
「いただき、だな」

 課長が、天道寺の手首から手を放すと、天道寺を抱きしめる形で、天道寺の口を塞いだ。

「止めろーッ、勝手なこと言って、そんなことするなっ!おかしいだろ! 課長が、天道寺を抱くってことは、俺を見捨てて帰るってことかよ。このまま、繋がれてろって、いうことかよっ!」

 ベッドの上から、必死で抗議した。
 俺の抗議に、課長が天道寺の口から離れ、俺の方を振り向いた。

「お前、論点ズれてないか? 声を荒げる理由、ソコか?」

 課長が、呆れたと、軽蔑の眼差しを俺に向け、次に、天道寺に、同情的な視線を向けた。

「雪、ホント、こいつは止めとけ。俺にしとけ。大人の遊びでいいじゃないか」

 天道寺の、双眸が光った。涙を溜めているらしい。

「そうだな、真司。楽しもう…もう…いい。お前の好きにしろ…」

 天道寺に方から課長に唇を重ねた。

「自棄(やけ)になった雪も悪くない。久野、よ〜く見てろ。雪がどれだけ、乱れるか。興奮して、ベッド汚すなよ」

 身長のある二人が、立ったまま、抱き合う姿は圧巻だった。
 いやらしい水音をたて、キスをしながら、課長が、天道寺を剥いていく。 
 天道寺の上半身が裸になると、課長も上衣を全て脱いだ。

「…真司…、あう…」

 天道寺の口から、課長の唇がずれ、そのまま、胸へと這って行く。

「…やめてくれよっ、課長ッ! やめて下さいッ!」

 狂いそうだった。
 二人のキスシーンは初めてじゃないし、課長が天道寺と寝ていたことも知っているが、目の前で、天道寺と課長が睦み合う姿に、脳味噌が沸騰しているのかと思うほど、怒りが湧いてきた。

「うるせぇ、外野は黙って鑑賞してろっ!」 

 課長に一喝されたが、静かに鑑賞など出来るはずなかった。

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