嘘だろッ!50 嘘だろッ目次


 手錠で繋がれた手が、どこまで下がるかやってみたが、鎖の長さが短く、せいぜい顔の位置までしか来ない。
 手で触れないなら、腰に当てられた枕で擦ってイくしかないだろう。
 尻の中に収まった人参のせいで、形を変えたモノが鎮まる気配を見せない。
 腰を浮かせ、シコシコと枕に擦り付ける。枕の生地が良すぎるのか、柔らかすぎで、イマイチ刺激に欠けていた。

『俺に、用はないですけど!』

 突然、天道寺の大きな声が聞こえてきた。

『久野を迎えにきた』

 課長!
 もう、フェスタは終わったのか?

『なんで、ここの鍵を持ってるんだっ!』
『そりゃ、雪が失神したときに、合い鍵を作っておいたからな』

 失神って、この二人、あれから何度もヤッてるのか?

『くそっ、下の暗証番号も変更しとけば良かった…拓巳は帰さない…真司、理由は分かってるだろ!』
『ははは、やはり、バレてたか。いっとくが、ありゃ、俺が悪いんじゃないぞ。久野が、涎垂らして、欲しがるから、無理矢理勃起させて、突っ込んでやったまでだ。あんなガキ相手に俺が欲情するわけないだろ』
『拓巳が、自分から真司を欲しがるなんて、最悪だ…ナニをした! 何もなくて、自分から欲しがるはずないっ!』 
『久野から、何も訊いてないのか? てっきり問い詰めたと思ってたが』
『…お前…どうして、約束破った…手は絶対出さないって、言ったのに』
『だから、手は出してないだろ。自分から出した覚えもないし、出したのは、手じゃなくて、俺の立派なムスコだろうが。久野はどこだ』
『会わせない、帰れっ!』

 久野、久野、と大声で呼ばれたが、この格好で返事をするわけにもいかないだろう。

「ふん、どうせ、ここだろ」

 バンと、ドアを蹴飛ばす音がした。

「…課長ぅうう!」
「こりゃ、また見事な格好だな。食い物は粗末にするなって、言っただろう」

 課長の視線が、俺のケツに集中している。

「突っ立ってないで、これ、解いて下さい!」

 ジャラジャラと鎖を鳴らして、繋がれていることを強調してみせた。

「無理だ。どうせ、鍵が掛かってるだろ。雪に頼め」
「じゃあ、人参、抜いて下さい!」
「出来ないこともないが、雪に怒られそうだし、オイ、雪、抜いてもいいのか!」

 この部屋にいない天道寺に向かって、課長が大声で問う。
 天道寺が、駆けて来て課長を殴った。

「会わせないって、言ったのにっ! 拓巳に近づくな! 鍵を置いて、出て行け!」
「暴力反対。雪がそう言っても、久野は、解放されたがってるぞ。なあ、久野」

 殴られた頬に手を置いた課長が、俺に近づいて来る。

「…こんな格好嫌です。帰りたい…。手錠外して下さい。人参抜いて下さい…」
「ほらな。雪がどんなにコイツのことを大事に想ったとこで、コイツには伝わらないってことだ。繋ぎたくなる雪の気持ちも、分からんでもないが…」

 どうして、こんなことが理解出来るんだよ。
 俺に理解出来ないことを、課長が理解ってなんだよ!
 大事に想ってする行為じゃないだろ。
 俺を飼うって言ったんだぞ、天道寺は。

「連れて帰るぞ。鍵出せ。雪ッ!」

 今度は課長が大声をあげた。

「真司には渡さない。拓巳を絶対渡さないっ!」
「…何、勝手なこと、言ってるんだよう。俺はモノじゃない! 渡すも渡さないもない。天道寺、これ、外してくれ」
「君は、そんなに、真司の方がいいのか? 俺よりも、真司に突っ込まれたいのか? 人参でも真司でも何でもいいのか?」

 天道寺の目の縁が、赤くなっていた。涙を必死で堪えているといった形相だ。

「誰も、課長がいいとか、言ってないっ! ……でも、天道寺…くれなかったじゃないか! 課長が欲しいわけでも、人参をケツから食いたいわけでもないんだよっ!」

 叫ぶ俺の腰に、課長が手を掛けた。

「止めろっ!」

 人参を抜こうとしてくれた課長に、天道寺が飛びかかった。

「いい加減にしろっ!」

 課長が天道寺に手をあげた。
 バシッと、乾いた音が響き、天道寺の長髪がはらりと舞った。
 呆然と立ち尽くした天道寺の手首を課長が捻り上げ、邪魔されないようにしてから、俺のケツに突き刺さった人参を一気に抜いた。

「…くっ…」

 修羅場の最中だというのに、人参に内壁を持って行かれる感触に、感じてしまった。

「このボケが。こんなモノに感じるな」

 抜いた人参で、課長が俺の頭を小突いた。 

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