嘘だろッ!5 嘘だろッ目次

 
 天道寺のマンションに移って一週間、俺の舌は完全に天道寺の料理のとりこになっていた。
 工場、リサイクルショップと忙しかった母親の料理は、出来合いかレトルト食品が週の半分を占めていた。
 独立してからも、節約のため、スーパーの夕方の割引シールを待っての出来合い総菜が多かった。
 出張が多いので変に自炊に凝って材料を駄目にするより、そっちの方が経済的だった。
 そんな俺の出来合い総菜人生は、終止符を打ったようだ。

「この味噌汁、社食より上手いっ!」
「出汁の炒り子、お取り寄せだからね。煮詰めすぎないようにも気を付けてるし、味噌は俺の自家製」
 
 ピアスをジャラジャラ装着した男が味噌まで作るのかと、意外性に最初は驚いた。

「ああ、俺、ここに越してきて本当に良かったです。吉田に感謝だよ」
「中
(あたる)は、俺の料理をいつも凝りすぎだって文句言っていたけど、久野君は喜んでくれるので、作りがいがあります。料理は俺の趣味だからね。久野君には趣味に付き合ってもらって有り難いです」
 
 安い家賃で、食事付き、しかもその食事は大家の趣味だから逆に有り難いと言われる、こんな夢のような暮らしがあるだろうか?
 片付けも手伝わないでいいと言われるし、共有スペースの掃除は全て俺が会社に行っている間に終わってるし、この生活に慣れてしまったら、俺、絶対彼女出来ないと思う。 楽だから。

「本当に、片付け手伝わなくていいんですか? 俺、この一週間何もしてないんですけど。なんだか、悪くて。遠慮なく言って下さい。ゴミ出しでも風呂の掃除でも何でもします」
 
 トマトソースの掛かったイタリアンハンバーグに箸を入れながら、天道寺に申し出た。

「そうだね〜、手伝って欲しいこともあるにはあるけど。久野君がここに慣れてからと思って。もう慣れた?」
「はい。慣れました。是非、是非、手伝わせて下さい。俺に出来ることなら何でもします!」
「じゃあ、俺の入浴が終わったら呼ぶので、部屋に来てくれるかい?」
「お安いご用です」
「ありがとう。嬉しいね。さあ、これもどうぞ」
 
 天道寺が、今まで見せたことのない満面の笑みを浮かべ、冷蔵庫からコーヒーゼリーを取り出した。
 デザート付きの食事が家で食べられる幸せに俺は浸り、手伝い頑張るぞっ、と内容も知らないのに、天道寺の役に立てる嬉しさを感じていた。

「あのう、俺は何を?」
 
 呼ばれて天道寺の部屋へ行ってみると、天道寺が濡れた髪を拭きながら立っていた。
 腰にバスタオルを一枚巻いただけの姿で。

「そこに座ってくれる?」
 
 ベッドを指され、俺はベッドカバーの掛かったダブルベッドに腰を降ろした。

「久野君は、鼻呼吸できるよね? 最近の人って口呼吸しか出来ないっていうけど、問題ない?」
 
 最近の人って、天道寺も十分今の人だと思う。

「問題ないです」
「そう、じゃあ、目を閉じて」
「はい」 
 
 何を手伝いをするのだろうか?

「そうそう、そして、少し上向いて口を大きめに開けてくれる?」
 
 こうか、な?

「そのまま、ジッとしてて」

 目を閉じ、口を開けてする手伝いって、この世にあっただろうか?
 暗闇にバサリと布が下に落ちる音が響いた。
 そして・・・

「んグッ!」
 
 口の中に何かが詰め込まれた。喉を塞ぐぐらいの大きな筒状の物がっ!

「っ!」
 
 驚いて目を見開くと、更に驚愕の光景が目に映った。
 天道寺の臍、下生えが、ドアップで迫り、更に眼球だけ下向けると、自分の口に詰め込まれたものの正体が……天道寺のチン●ッ!!!!
 慌てて首を後ろに反り、口の中を犯す物から逃げようとしたら、天道寺の手に阻まれた。
 後頭部をガッシリと押さえ込まれ、固定されてしまった。
 それでも、力を振り絞り、なんとか天道寺の一物から逃れようと、口をずらそうとしたが無駄だった。
 外そうと動けば動くほど、口の中で天道寺の物が大きくなっていく。
 どうすれば、いいんだっ!
 そうだ、俺には手という器官があるんだっ!
 両手を力任せに前に押し出した。
 バチッと肌を叩く音がして、天道寺の身体が後退した。同時に、俺の口の中のヤツの一部も後退した。

「な、な、な、…ぜえ、ぜえ、」
 
 僅かな時間ではあったが、息をすることを忘れていたので、言葉が続かない。

「な、んて、ことするんですかっ! 俺、男ですよっ!」
「知ってます。久野君は男性です。何を慌てているのですか?」
 
 勃(た)たせたものを隠そうともしないで、全裸のまま顎の下に手を置き、天道寺は首を傾げてみせた。

「俺はっ、手伝いに来ただけですっ! 風俗嬢じゃありません!」
「だから、手伝ってもらっているんじゃないですか。性欲処理の手伝い。難しいことではないですよね?」
「俺は男のモノを咥える趣味も性癖もありませんっ! ゲイじゃありませんっ! 無理ですっ! 他の手伝いにして下さいっ! 掃除とか洗濯とか……」
「別に君の趣味は関係ないと思うけど。気持ちの良さを君が知っているかどうかの問題だと思うよ?」
「どういう意味ですか」
 
 少々口調が喧嘩気味になってきた。

「彼女いないのは確認済みだけど、久野君は口でしてもらった経験はないの? あるなら、人間の口の中の気持ちよさは知っているよね?」
 
 こいつは、俺にフェラの経験を訊いているのか? 風俗に行かないのあるわけないっ。

「ないっ。そんな悪趣味な経験はない!」
 
 俺の言葉に、何故か天道寺の目が固まった。

「ははは、まさか…、え、本当ですか? 口淫をされた経験、ないのですか?」
 
 同情的な目で見つめられた。
 そんなの普通だろ! 
 ふつう、そんなこと付き合った女に頼めるものじゃないだろう? ち、違うのか?
 あれは風俗か、アダルトビデオの中でやることだろう? 
 普通の男女がするものじゃない…はずだ…たぶん………。  

 
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