嘘だろッ!48 嘘だろッ目次


「…駄目だって、天道寺さんっ!」

 天道寺の告白に何か答えないと、と思うのに、ねっとりした温かい舌に、天道寺の涙の塩分に反応していた孔が、悦びだした。昨夜の名残か、簡単に反応を見せる。

「…っく、そんなに、優しくしないでくれっ」 

 課長の一物からの得た快感じゃなく、天道寺から受けた快感の数々を身体が思い出し、自ら受け入れようとしてしまう。俺は自分から、天道寺の舌の動きに合わせて腰を揺らしていた。

「こんなに、淫らになって…。真司のせいですか。俺じゃなく、真司に教え込まれた方が良かったと? 俺の餌は嫌だったけど、真司とは続けたいと…」

 誰も、続けたいとか言ってないし、課長から、教え込まれた覚えもない。冷蔵庫の野菜代わりになっただけだ。

「…続けたいとか、思ってない…」

 そんなことより、早く続きをして欲しい。
 身体が疼く。ソコが疼く。そして、前も刺激を求めていた。

「…欲しい…。天道寺さん…の餌がいい…」

 自分が、ここから逃げた理由も忘れて、餌であった短い期間の自分に戻っていた。
 求めれば、与えられていた快楽。激しくて、甘い時間。 そう、甘かったのだ。
 天道寺のくれる快感は甘い蜜だった。
 くれると思った。この状況で、素直に言えば、与えてもらえると思った。

「駄目です、久野君」

 天道寺が俺から離れた。

「前に、言ったでしょ。俺は君をもう、抱かない」

 泣いていた為か、鼻声で、拒絶された。

「どうしてだよっ、こんな格好にして、舐めたくせに、どうしてだよっ!」
「脱がしたのは、真実を知るためです。繋いだのは、逃げられないようにするため、舐めたのは、あまりに痛々しかったから、ただそれだけです」
「…そんな…酷い……」

 天道寺が、立ち上がり横から、俺を見下ろしている。もう、その顔に涙はなかった。

「俺が、酷いですか? 何を今更。俺が酷いことしたから、君は出て行った。最初の出会いからして、君には、俺は酷い人間なんです。淫乱になってしまった君は、もうプライドもないのですか? ちょっと舐めただけで、ヒクヒク穴を収縮させて、いやらしい。俺じゃなくても、真司でも誰でもいい。それじゃ、男を漁っている欲求不満のゲイですよ」
「…あんまりじゃないかっ!」

 辛辣な言葉に、思わず怒鳴ってしまった。

「身体だけの快楽は、君でなくても、間に合ってますから。君も、俺以外で間に合っているようですし」

 手伝いとか言って、身体を繋げることに、意味を持たせようとしなかったのは、俺よりむしろ、天道寺じゃなかったのかよ!

「だったら、俺をここから出せよ。もう、いい。俺、帰る。いてもしょうがないだろ。俺は別に天道寺さんと、口喧嘩したいわけでも、一方的に嫌味を言われたいわけでも、そんなとこ、見られたいわけでもないっ! 何だよ、勝手に連れてきといて! これ、外せっ!」

 ジャラジャラと、手錠から伸びる鎖を鳴らした。天道寺の顔が、みるみる赤くなり、眉尻が上がった。

「で、帰ってその孔に真司の太いの挿れてもらいますか?まだ、欲しそうですしね」
「天道寺っ!」

 酷い侮辱だと感じた。俺は初めて、天道寺を呼び捨てにした。

「帰しません。君はもう、ずっとココです。どこにもやりません」
「どういう意味だ!」
「言葉通りです。俺が君を飼います。もう、これ以上、真司の側に置くのはイヤです。君が、俺以外の男に股を開くのは、イヤです。君の一人や二人、養えますから」

 何を言ってるんだ? 
 こいつ、大丈夫か…? 
 怒りを通り越して、心配になってきた。

「仕事が…ある…」

 それぐらい、天道寺だって分かっているはずだ。

「それも、真司の下での仕事ですよね。必要ない」

 必要ないって、あるだろ!

「無理なこと、言うなよ。おかしいよ。狂ってる」
「だから? そんな格好の久野君に、言われても、説得力ありません。だいたい、ノーマルな人間からしたら、男もOKな時点で、俺は狂ってるんじゃないんですか? 正常とか、異常とかいうのは、基準の違いだけです」 

 それだけ言うと、天道寺が部屋を出て行った。
 俺は、下半身裸、尻を上に向けた状態で、繋がれたままだ。毛布さえ、掛けてもらってない。
 俺を飼うって、本気だろうか?
 大の大人が、人間を飼うなんて、本気で思うわけないよな?
 きっと怒りに任せての発言で、冷静になれば、解放してもらえるだろう。
 この時の俺は、そこまで、深刻に考えていなかった。
 そして、冷静に考えねばならないことが、他にも一つあることを失念していた。

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