嘘だろッ!46 嘘だろッ目次


「ここって…」
「よく知ってるでしょ。私のマンションです。さあ、中へ」

 最後に足を踏み入れた時の、俺のした卑劣な行為が頭をよぎる。

「入れません…俺…もう、忘れるって…決めたし……」
「忘れたなら、問題ないでしょ。途惑うこともないはずです。どうぞ」

 勧める言葉に反して、エントランスが開くと背中をドンと乱暴に押された。
 前のめりになりながら、建物内に体が入る。

「天道寺さんっ!」
「どうしました?」

 フェスタの会場内同様、また手首を掴まれ、今度はエレベーターに乗せられた。
 結局俺は、天道寺の部屋まで連れて行かれた。
 てっきりリビングに案内されると思いきや、連れ込まれたのは、天道寺の寝室だった。
 正直、リビングでなくて助かった。
 何故なら、リビングは俺が天道寺を強姦した場所で、その時のことを詳細に思い出しそうで怖かった。

「身体が怠いんでしょ? 横になって下さい」

 またしても背中をドンと押された。今度はベッドの上に顔からダイブする羽目になった。
 怒っているのか? 
 申込書のやりとりの時からツンケンした口調だったけど、マンションに着いてから、どうも空気が違う。
 冷やかな視線だし、しかも俺、かなり乱暴に扱われている。
 ベッドに倒れた俺を立った天道寺が見下ろしている。

「その身体の不調の原因はなんですか? 特に腰が怠そうですけど?」
「…その…これは…掃除をしていて…」
「掃除ですか。へ〜、なるほど、真司にこき使われていたと、そういうことですか」

 こき使われていることには、間違いはない。

「…はい」
 
 身体が怠い原因は他にあるが、とてもじゃないが、天道寺にホントのことは言えやしない。

「分かりました。そのまま、休んでいて下さい」 

 もっと、根掘り葉掘り訊かれるとばかり思っていたが、ひとまず尋問からは解放された。 
 天道寺が一旦寝室を出て行った。
 ホッとしたのも束の間、直ぐに妙なモノを手にして戻ってきた。

「天道寺さん…それは……?」
「子どもの頃、嘘つきは泥棒の始まりって言われませんでした?」

 うちの場合は『銀行は』だったような気もするが……

「言われたかもしれません」
「泥棒は、逮捕されるものです」
「ええ、まあ、そうでしょうね」

 天道寺が近づいて来る。

「つまり、君は俺に逮捕されるというわけです」
「は?」

 俺の右手を掴むと、天道寺が手にしていた妙なモノ…手錠を掛けた。

「な、にっ、」
「何って、だから、逮捕です」
 
 至極当然という顔で、今度は左手の手首にも輪っかを掛けた。

「外して下さいっ!」
「嫌です」

 一言残して、また、天道寺が部屋を出て行った。
 一体ヤツは何がしたいんだろう。俺は泥棒じゃないし、天道寺だって警察じゃないじゃないか。何が、逮捕だ!

「それだけだと、自由が効くので、念の為、繋いでおきましょう」

 どこから持ってきたのか、鎖を手にしていた。
 もともと、手錠とセットだったのか、手錠の中央部分に鎖を掛ける小さなフックがついており、外れないように鍵まで掛けられた。
 鎖の端を、ベッドの脚に巻き付けると、天道寺が、鎖を引っ張り、抜けないかどうか確かめた。

「完璧です。さあ、白状してもらいましょう。どうして、今日の久野君は、身体が怠いのですか? 動きがかなり変でしたよ。もっと詳しく言いましょうか?」 
「…関係ないじゃないか…。俺の身体がどうでも、天道寺さんには……関係ないじゃないか……」
天道寺に尋問される謂われはない!
「関係ない?」

 天道寺の顔が曇る。

「心配しては、いけませんか? 確かにもう、久野君はここの住人ではないですし、俺は大家でもない。全て忘れろと言ったのも俺です。しかしそんなフラフラな状態で俺の目の前に現れたら…」

 俺的には逆なんだけど…。
 俺の目の前に、天道寺が突然デザイナーとして、現れたんじゃないかよ。

「ほっとけないでしょ。君は、ゲイじゃないんでしょ。 だから、俺とのことでも、傷ついていたんじゃないんですか? 友人に売られ、俺に犯られて、違いますか?」
「…違わない」

 でも、それだけじゃない。それだけじゃないんだ。なんて説明すればいい? 

「それで、出て行ったはずなのに、その腰は何ですか? 大きなモノ、ぶち込まれました、と語ってますよ」

 やっぱり、バレてた。

「考えられる相手が一人しかいない以上、心配して当然でしょ」
「…相手なんて…いません…」

 課長に犯られたなんて、天道寺には絶対知られたくない。
 それに、昨夜のは、むしろ「ヤッて頂きました」的な状況だったし……
 
 NEXTBACK  

嘘だろッ目次 novel