嘘だろッ!45 嘘だろッ目次 |
「…あの、」 「はい、」 「…正直驚きました」 「俺がデザイナーだってこと?」 「そうです。…俺だけ知らなかったみたいだし」 「別に隠しているつもりはなかった。君が俺の職業を訊いてくれれば、隠さず話すつもりでいたよ。でも、久野君、俺に関心がなかったからね。わざわざ、自分から言うのも変でしょ」 関心がなかったわけじゃない。天道寺の職業が気にならないぐらい、あの時は、天道寺自身が強烈で…… 「そんなことより、久野君、もう今日の売り上げ目標達成じゃないですか?」 八十万円が十三本で一千四十万、それに天道寺の一本が加われば、一千百二十万だ。越えている。 目標を越えている。まだフェスタが始まって数時間しか経ってないのに。 「達成です。天道寺さんのおかげです。ありがとうございました」 俺が礼を言っている間に、天道寺のカードも戻ってきた。 「あとは課長一人でも問題ないですよね」 「は?」 「久野君、身体辛そうだし、訊きたいこともあるし……課長さんっ!」 女性客の申込書を書かせていた課長を、天道寺が呼びつけた。 「何でしょうか、吹雪様?」 作り笑顔バレバレの営業スマイルで、課長が飛んできた。 「久野君、もう仕事終わりでいいですよね? あなたの希望の売り上げ目標、達成しているはず。違いますか? 休日出勤なのは、仕方ないとして、今日の久野君は見てられない。連れて行きます」 連れて行くって、どこにだ? 「構わないですよ。一課も売り上げ問題ないみたいですし、うちも、久野がいたおかげで、誰かさんがなりふり構わず、営業してくれたみたいだし。もう、今日の久野の役割は終わったも同然だ」 「ふん、さすが二課の課長さん。俺に協力させるために、久野君を引っ張り出したのバレバレですけどね。まあ、いいでしょ。彼は連れて行きます」 どうして、俺に天道寺が協力するんだ? 俺は天道寺を利用するための餌だったのか? 「どうぞどうぞ、お好きにして下さい。久野が納得済みなら構いません。どうする、久野?」 えっ、俺かよっ! そりゃ、仕事するには、正直身体が怠いし、アソコの違和感が気持ち悪くて、横になりたいけど、天道寺と一緒にここを出てどうする? だいたい、天道寺は、俺をどこに連れていくつもりなんだよ。 「…どうするって、言われましても…」 「そんな優柔不断だから、良いようにつけ込まれるのですよ」 それって、課長にってこと? それとも、言っている天道寺にってことか? 両方かもしれない。いや、吉田を含め、周囲全員にかもしれない。でも、即決できない事って誰にでもあるんじゃないの? 突然、天道寺が立ち上がった。 「久野君、荷物は?」 「荷物?」 何の荷物だよ。布団の在庫のことか? 「課長さん、久野君の荷物を」 ハイハイと、課長が持ってきたのは、俺の鞄だった。俺にではなく、天道寺に渡した。 「じゃあ、行きますよ」 グイッと、俺の手首を天道寺が掴む。無理矢理、俺を立たせると天道寺が俺の手首を掴んだまま、歩きだした。 「みなさん、ごゆっくりフェスタをお楽しみ下さい。ご一緒できて光栄でした」 デザイナー吹雪に戻り、布団の購入申込み書類記入中の女性客達に挨拶をすると、宝石のブースの吉田に断るでもなく、俺を強引に連れ出した。 俺の鞄を持った天道寺は、無言で俺を引きずって歩く。 タクシーに乗せられ、着いた先は、見覚えのあるマンションだった。 |