嘘だろッ!31 嘘だろッ目次 |
「気持ち良ければ、誰でもいいんだな」 「ま、そういうことです。多少、好みはありますけど」 「じゃあ、今から俺と寝ろよ。課長と寝たんだろ? 俺とも寝ろッ!」 馬鹿な事を叫んでいた。 それは分かっていた。 でも、このまま、大人しく引き下がることが出来なかった。あ、そうですかと、退室することが出来なかった。 「嫌です」 嫌? 拒否された… 「課長とは寝ても俺とは嫌だっていうのか?」 「はい。久野君とはもう寝るつもりはありません。性欲処理をお願いするつもりもありませんし、第一、遊びは終わりましたから。今度は当分真司と遊ぶことにします。上手ですしね」 「誰でもいいって言ったじゃないか!」 「ええ、言いました。でも気分が乗る乗らないはある。今はそんな気分じゃないし、真司の後で久野君では役不足ですから」 それは、俺が下手だって言いたいのか? 「何ですか、その不服そうな顔。ハッキリ言いましょうか?オモチャとして遊んでいる間は俺も楽しめましたが、感情的な久野君はウザイだけです。帰りなさい」 ウザイ? オモチャ以下とでも言うつもりか? 俺が取った行動は、俺の方を向いた天道寺の頬を引っぱたき、胸を突き飛ばすという暴力だった。 天道寺が、バランスを崩し、腰からソファへ沈んだ。沈んだ天道寺に飛び乗る。 「止めなさい! 久野君っ」 馬乗りになった俺を押し退けようと、天道寺が抵抗を見せる。 その天道寺を今度は平手ではなく、殴りつけてしまった。 最悪だ。 度を超えた怒りが暴力の衝動となっていた。他人に暴力を振るったことなど一度もなかったのに。 殴られた天道寺がギッと俺を睨み付けたまま、抵抗を止めた。片方の腕をソファから垂らし、動かない。 「こんなことしても、傷を負うのは俺じゃない……」 口端が切れ、血を滲ませた天道寺がポツリと呟いた。俺は聞き流し、バスロープの袷を開いた。 「………」 目に飛び込んで来たのは、薔薇の花弁のような鬱血痕―キスマークだった。 昨夜まではなかった痕が、課長との情事を証明していた。 胸を中心に腹部まで散ったキスマークに、天道寺の肌を這う課長の愛撫が容易に想像され、情けないことに、それが俺を興奮させた。 馬乗りの身体をずらし、天道寺の下半身に残っていたバスロープを全部剥いだ。 天道寺の雄は下を向いたまま、俺を無視していた。 「どうします? 俺に突っ込みますか。今ならまだ緩いから久野君でも、簡単に挿入できますよ。それとも、俺に挿れて欲しいですか? それは無理です。見ての通りです。今の君に俺は欲情してませんから」 「うるさいっ、黙れっ!」 狭いソファの上で、天道寺の脚を割り、手探りで天道寺の窄みを見つけると、躊躇(ためら)わず指を突っ込んだ。 天道寺との経験上、入口の状態から、かなり激しい交わりがあったことがわかる。 「君に、男が抱けますか? 無理です。止めときなさい。それ以上すると、強姦ですよ」 「課長とは…寝たくせにっ!」 位置確認で挿入していた指を抜くと、直ぐに自分の先端を腫れた穴に押しつけた。 「真司じゃないけども、久野君、アホな子です……ウッ」 怒りが性欲と繋がるとは思わなかった。 女に挿入するより慎重にしないといけないという配慮もないまま、天道寺の中に押し入った。ゴムを装着することさえ、頭になかった。 「…久野君…あなたは…くっ…」 天道寺が苦痛で顔を歪めていた。天道寺の内部は想像以上に温かかった。 だが潤滑油も何も使用してない挿入はかなり痛いはずだ。しかも課長との後だ。腫れているし、天道寺自身は興奮してないのだ。 天道寺が俺に与えていた溶けるような快楽が、今の二人の間にはなかった。 俺は、己の欲望を吐き出す為だけに、腰を振った。 自慰だった。最悪の独りよがりな行為。 天道寺の身体と繋がっているはずなのに、一体感なんてない。 カップ麺の中かコンニャクかダッチワイフか…どれも経験ないが、そのいずれかの中に生理的欲求を満たすために突っ込んでいるのと、同じなのだ。 天道寺を欲しての行為ではなかった。課長に天道寺がさせた行為が許せなかったのだ。 自分のオモチャを他人に横取りされた子どもと、何ら変わらない幼稚な怒りに支配されていた。 腰を振りながら、それがよく分かった。そして、俺は天道寺を食い尽くしたいわけでも、強姦したいわけでも、突っ込みたいわけでもないってことが、イク寸前に思い知らされた。 「…クソッ」 俺が求めているのものは、天道寺の内部にはなかった。 物理的刺激を無理矢理作り、天道寺に苦痛を与え、溜まったモノを全部吐き出しても、天道寺が俺に教えた快感の一欠片もなかった。 |