嘘だろッ!26 嘘だろッ目次


『…俺への嫌がらせだったのか』

 課長への嫌がらせって?

『自意識過剰なところは相変わらずだね』
『雪(ゆき)、一課もお前の仕業だろ』

 雪、って、この二人元々知り合いというよりは友人なのか?

『なんのことだか』
『しらばっくれやがって。とにかく、久野は当分俺が引き取る。しばらく、頭を冷やせ』
『それこそ、嫌がらせじゃないか。拓巳が真司と会社の外でも一緒とは、俺に対する嫌がらせ以外の何物でもないと思う……』
『オイオイ、久野じゃあるまいし、デカイがたいで、似合わない涙目するな。久野は珍獣みたいで楽しめるけど、雪の涙はイライラする。嫌なこと思い出させるな』
『…悪かったな。…拓巳は俺のことなんて言ってるんだ?
中(あたる)のアホが原因なんだろ』
『違うだろ、お前だろ。さっき、久野が言ってた三十万で想像は付くが。久野はお前に掘られたこと、俺には知られてないと思っているらしいが。お前が付けたマーキング、ダニに喰われたんだと。ふん、ダニの方がまだ数倍可愛げあるし、害も少ないっていうのにな』

 掘られたってっ、掘られたってっ、嘘だろッ、課長、知っていたんだッ!
 何で知ってるんだよっ。そう言えば、あの時の電話で『立てない』って、俺が自覚する前に課長が…。
 何が大人の事情だよ。
 元々、この二人、名前で呼び合うぐらいの関係じゃないか。
 でも、俺が吉田に売られたことは知らなかったみたいだ。

『真司が拓巳に変なことしたら、許さないっ!』
『オイオイ、なに悲壮な顔してるんだ? 変なことしたのはお前だろうが。あんなガキに俺が何かするとでも? 俺の好みは昔から変わってないぜ?』 

 課長が変なことするかよ。ホモでもないのに…こんな怖い男とどうにかなりたいって思うのは、女ぐらいなものだ。

『いいか、お前は間違えたんだ。やり方を間違えた。一人でゆっくり反省しろ。久野が出て行きたいと言っているんだ。黙って行かせてやれ。引き止めるなよ。寂しくなったら…』

 ん? なったら…? 

『コノ、馬鹿野郎ッ! 外道ッ! 何しやがるんだ』

 課長、何をしたんだ? 
 変な間があったけど。
 天道寺のこんな罵声聞いたことない。
 俺とはいつも丁寧な言葉遣いだったし。あの最中も……バカ、何考えてるんだよ。
 はあ、俺の知らない天道寺か。だいたい俺の知っている天道寺ってなんだよ? 
 料理が上手くて、家事が得意で、面倒見がよくて、そして、俺に知らない世界を教え込んだエロ魔神ってことだけだ。
 そう言えば、天道寺が仕事をしてるのかどうかも知らない。
 だいたい、何で生計を立ててるんだ? は、関係ないか。もう、俺と天道寺に接点は無くなるんだから……
 俺の知らない天道寺を課長は知ってたんだ。何かが、引っ掛かった。何だか分からないが、胸の奥がざわつく。  課長が天道寺のことを良く知っていると思っただけなのに。

『寂しくなったら、って言っただろ。俺は別に構わないぜ』
『真司、ちょっと、顔、こっちへ』 
『ん?』

 バチッて音がした?

『雪ッ! 営業マンの顔叩くヤツがあるかっ』
 すげぇ…、天道寺、勇気ある…。

『外道へのお返しさ。ふん。だいたい、営業にはあまり出向かないくせに。部下の尻叩いているだけじゃないか。顔は必要なないだろ』
『どうしても、数字が足りないときは出てる』
『へぇ〜、課長さん自らね。滅多にお目には掛かりませんけど』
『お前が、出てこないだけだろ』
『今日を境に、出向く理由は出来ました』
『だろうな』

 話が見えない。
 お目に掛かるとか、出向く理由って、何だ? 

『この痛みの分は、久野に埋め合わせさせる』
『やっぱり、そうじゃないかッ! ガキとか言いながら、お前は言葉と行動が違うんだよ。他の社員より贔屓しているのはバレバレなんだ。保護者面して付いてきやがって…拓巳だって立派な大人だ』

 …そこを突かれると、恥ずかしい限りです。
 でも、俺、一人ではあなたと対峙出来なかった…

『年上に向かって『お前』とは、雪も偉くなったもんだ』

 そうだった。友人同士にしては年が離れている。
 じゃあ、二人は一体どんな関係?

『ええ、お陰様で。ありがとうございます』
『そうか、俺より偉いのか? その割りにはやっていることが、久野並のアホだがな。久野はアホでも二課のTOPなんだ。気に掛けるのは当たり前だろ。俺の給料も関係してくるんだ。じゃなかったら、誰がここまで世話を焼くか。面倒くさい。泣こうが喚こうが、掘られようが、知ったことか。埋め合わせといったら、数字に決まってるだろ、なあ、久野。聞こえているんだろ! 出てこい』

 ヤバイッ! ばれてたっ! 
 恐る恐る二人いるリビングに向かう。


 NEXTBACK