嘘だろッ!12 嘘だろッ目次

 
 「こんなに冷たくなって…」
 
 確かに俺の身体は冷えていた。直
(じか)に伝わる天道寺の生肌(なまはだ)の感触と体温は、羽毛布団より暖を与えてくれた。
 背中に回された手が俺の背中をさすってくれるのはいいのだが、身長差のためヤツの息子が俺の臍(へそ)周辺でモゾモゾとその振動で揺れるのがくすぐったくて堪られない。それに俺のはヤツの太腿に触れているし…

「天道寺さんっ! 放して下さい!」
 
 天道寺を見上げて俺は抗議した。

「何故?」
 
 見下ろす天道寺は涼しげな顔で、平然としている。

「何故じゃないでしょっ! 男同士裸で抱き合うのは変でしょ!」
「相撲取りもレスラーもやってると思うけど」
「違うでしょっ! あれはスポーツでしかも一部はちゃんと隠してます」
「久野君、意外と細かい性格だね。俺の身体、温かくない?」
「…温かいです」
「人肌同士重ね合うのって心地良くない?」
「……心地良いです」
「では問題ないでしょ?」
「……ないです」
 
 えっ? あるだろっ、何を俺は言っているんだ…この下腹のナマコ、直に腹っておかしいだろっ! 
 フリチン同士で抱き合うっておかしいだろっ! あ〜〜〜、もう、俺のバカッ!!!!
 自己嫌悪に浸っていると不意に天道寺の腕が解かれた。

「行きましょうか」
 
 解放されたと思ったら、手首を握られ浴室へ連れて行かれた。

「あの、天道寺さん、風呂はさっきは入りました」
「身体も冷えているし、温かいお湯に浸かった方がいいですよ。久野君さっきシャワーだけでしょ?」 

 どうして、知ってるんだよぅ。

「俺の身体じゃ芯まで温めてあげることはできませんから」
 
 そこだけは俺も賛成だ。芯までというか、裸で抱きつかれるのは困る。気持ち悪くないから余計困る。

「折角なので、入ります」
 
 ゆっくり湯に浸かるのも悪くないだろうと俺は浴室に入っていった。

「俺もお邪魔します」
「天道寺さんっ!」
 
 もちろん一人で入るつもりで俺は中に入ったのだ。ガラスの引き戸も閉めた。が、長髪を後ろで結い上げた天道寺が何食わぬ顔で入って来た。

「慌てなくてもいいですよ。二人で入れるスペースありますから」
 
 スペースの問題じゃないだろ!

「天道寺さん、もう風呂は済ませたんじゃないんですか?」
「ええ、一回入りましたけど。湯に浸かるのは好きですから。お邪魔させて頂きます。駄目ですか?」
 
 ここで駄目というのは、大人としてどうだろうか? 仮にも天道寺は大家なのだし…

「…どうぞ」
 
 俺の言葉に天道寺は遠慮無く湯船に浸かる。俺はというと、排泄した後なので、また身体を洗うことにして、シャワーの前に陣取った。
 別に天道寺を意識する必要はないのだ。銭湯に一緒に行けばこういうシチュエーションはよくあることだ。
 吉田とも温泉に浸かったことは何度もある。意識しないことを意識している自分の矛盾に目を瞑り、石鹸を泡立てて身体を洗った。どうも見られている気がする。
 視線を感じる。わざとらしくならないように、天道寺に背を向けたが、背中、特に尻を見られている気がする。
 きっと考えすぎだ、と意識するんじゃない、と自分に言い聞かせ、サッサと洗浄を終わらせた。

「久野君、早く浸かりなさい。冷えがとれませんよ」
 
 母親にみたいに天道寺が言う。俺の分のスペースを空けてくれている。

「お邪魔します」
 
 前を隠すタオルぐらい持ってくれば良かったと後悔した。
 バスタブの縁を越える時、天道寺の顔の直ぐ近くを俺の一物が横切ったのだ。
 天道寺の目は確実にソレを捉えていた。 
 天道寺の横に並んで浸かる。湯加減は丁度いい。
 先に人が入ると湯が滑らかになるのかさら湯の刺激がなかった。

「お腹の調子はどうですか。痛みはありませんか?」
「大丈夫です」
「二日続けてとなると可哀想で、もう口でのお手伝いは頼めませんね」

 本当ですかっ、あなたからそう言ってくれるのですかっ!
 あぁ、天道寺さん、やはりあなたはいい人だ〜、と心の中に薔薇が咲き乱れるのを感じた。
 この二日の地獄が終わる。万歳をしたい心境だ。

「でも、悪く無いですか…他に手伝いしてませんし」
 
 一応ここは思ってもいないことでも、残念そうに言うべきだよな。きっと、いいですよ、と言ってくれるはずだ。

「いいですよ、久野君。お腹下すのは辛いでしょう?」
 
 言った! 『いいですよ』って言った!
 ヤッターッ! ああ、これで白いオタマジャクシを飲み込まなくて済む。
 白魚の躍り食いの方がまだ楽だ…食ったことないけど。

「はい、正直辛いです」
 
 ここは本音でいいんだよな? 俺、間違ってないよな?

「俺の作った料理が吸収されず出されるのも嫌ですし、口でのお手伝いはナシにしましょう」
「ありがとうございます」
 
 本当に嬉しくて、頭を軽く下げて礼を言った。

「別の手伝いをお願いしてもいいですか?」
「はいっ、何でも言って下さい。俺、何でも手伝いますから。今度はお役に立てると思います!」

 力が入り、拳で小さくガッツポーズまでしてしまった。 
 お湯が跳ね俺と天道寺の顔に掛かったが、天道寺は笑ってくれた。

「頼もしいですね。本当に大丈夫ですか?」
「今度は大丈夫です。任せて下さい」
 
 口に咥えて飲む込むこと以外なら何でもできるさ。
 ゴミ出しでも換気扇の掃除でも何でも来いっ!

「良かったです。俺としては口よりこっちの手伝いの方を本当は頼みたかったんですよ、久野君」
 
 な、なんだっ!?

「天道寺さん?」
 
 天道寺がまた抱きついてきたのだ。
 今度はお湯の中で俺の背後から。
 俺はスッポリと、天道寺の両脚の間に嵌る形で抱き寄せられている。

「今度はココをお借りします」
「っ、どこ触っているんですかっ!」

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