嘘だろッ!10 嘘だろッ目次

 
 ん〜、気持ちが良い。
 抱き枕だ…温かいなぁ〜〜、この枕は電気かなぁああ、人肌と同じ温度はあるよ…身体を絡めたらもっと気持ちいいはず…少しアソコをスリスリしても… …あ〜、あ〜……んっ? 枕?
  にしては…布の肌触りじゃない?
  夢かなぁ…でも、この感触、夢じゃないような……
 心地良い眠りから抜け出した。布団を頭から被っていて視界は真っ暗だが、枕でないものに俺はしがみついているらしい。 
 ガバッと布団を蹴飛ばすと…

「………」
「お目覚めですか?」
「……天道寺さん?」
「よく寝てましたね」
 
 上半身裸の天道寺がベッドヘットに背を預けて座っていた。

「…何故、俺の横に?」
「ここ、俺の部屋ですから」
 
 部屋の中を確かめるように見渡した。確かに俺の部屋ではなかった。
 俺の部屋に運んでもらったはずなのに、俺は天道寺の部屋のベッドにいる。

「は、ハ〜クションッ!」
 
 身体がス〜ス〜として、クシャミが出た。

「何か羽織る物持ってきましょうか?」
 
 クシャミで頭が少しスッキリした。
 冴えてきた頭が身体が冷えた理由を俺に理解させた。

「裸っ! 俺、何も着てないっ!」
 
 裸で直に布団を被っていたようだ。信じられないことに下着も着けていなかった。
 ようするに全裸だった。
 俺に全裸で寝る習慣はない。
 さっき蹴飛ばした布団を引き上げ、肩まで覆った。

「俺も着ていませんよ?」
 
 上半身裸だと思っていた天道寺は、下半身まで裸だった。
 そして、俺は抱き枕の正体を理解した。
 俺が…しがみついていたのは…

「久野君、甘えん坊さんなんですね。意外ですけど、子猫のように俺に抱きついてきましたよ」
 
 天道寺の身体だった。
 今度は急に身体が熱くなる。
 そう、羞恥というヤツだ。穴があったら入りたい! 
 無いなら作るまでだ、と布団を更に引き上げ顔まで隠した。

「どうしました? 甘えれるのは嫌いではありませんが? 久野君、子猫のように可愛くしがみついて寝ているかと思えば、腰を俺の太腿に密着させて何やらしてましたが…その辺は大人ですね」
 
 あ〜〜〜、もう、どんな顔して天道寺を見ればいいんだよ。
 恥ずかしくて顔を出せない。
 でも、俺はどうして裸で天道寺のベッドにいるんだ? 
 確かに俺は自分の部屋に運んでもらったし、服は着ていた。
 記憶を無くすほど酔ってはなかった。ハッキリと覚えている。

「…あの…、俺、どうしてこの部屋に? しかも裸で… 自分の部屋に運んでもらいましたよね?」
 
 布団は被ったままである。

「ドスンという音がしたので見に行ったら、久野君がベッドから落ちてて。酔うと寝相が悪くなるのかな。苦しそうだったので服を脱がし、そのままこの部屋に連れてきました。風呂がまだだったので、ついでにお湯で絞ったタオルで身体を拭いてます。その方が気持ち良く寝られるでしょう?」
「身体って…全身ですか?」
「ええ、もちろん。心配しなくても隅々、隈無く拭いてますので、清潔です」
 
 そんな心配じゃないっ! 
 アソコも、ソコも、全てってことか? 
 こいつ、見たのか…俺の、触ったのか? 

「礼には及びませんから」
 
 誰が、礼を言うんだよ…言うべきなのだろうか…言うべきだよな…親切でしてくれたのだろうから。
 う〜、バイの天道寺にはどうってこと無いことかもしれないけど、他人に全身を見られるってことは恥ずかしいことなんだよっ。
 しかも、俺…抱きついて…その…スリスリしてしまったわけで。
 あぁあ、途中で起きて良かった。まだ不幸中の幸いだ。
 あのまま続けてたら、俺、間違いなく天道寺の太腿に発射している。

「…ありがとうございました…」
 
 あれ、でもこの部屋に連れて来られる理由がない。
 俺の部屋で身体を拭いて、そのまま寝かせてくれれば済む問題だろ?

「それで…俺がこの部屋に連れてこられたのは…何故でしょう?」
「その方が合理的ですから」
「合理的?」
「はい。今日の手伝いがまだでしたから」
 
 そのためにか?
 俺を自分のベッドまで運んだのか?
 スキンを買ってたくせに、なんでそう俺で処理する気が満々なんだよう。
 昨夜のあのマズイ味を思い出すと泣けてくる…クソッ

「あのう…」
 
 ゆっくりと布団から顔を出す。

「何でしょう?」
「今何時頃ですか? それと、何か羽織る物を…」
「まだ夜の十一時です。四時間眠っていたのです。羽織る物は…そうですね、折角ですから私の趣味の物でも貸しましょう」
 
 天道寺の趣味って? 
 とっても、嫌な予感がする。
 天道寺がベッドから降り、クローゼットに歩いて行った。もちろん、フルチンでだ。
 隠すという習慣は無いらしい。
 隠す必要ないぐらいのモノをお持ちなので、羞恥など無いのだろうが…見せつけられているようで、どうも落ち着かない。
 だったら見なきゃいいと思うのだけれど、目を反らしても目の端に入ってくる。
 イヤ、完全には無視できないというか…

「これ、どうぞ」
 
 天道寺が持ってきたのは、

「天女の羽衣?」
 
 スケスケの素材のガウンのような物だった。
 わかりやすく言えば、女性用のスケスケのネグリジェの生地をガウンにしたような感じだ。

「久野君、発想が豊かですね。意外と温かいですよ。どうぞ、遠慮なく」
 
 遠慮なくって、言われても…着たところで丸見えじゃないかっ。

「これが、天道寺さんの趣味ですか?」
「素敵でしょ? 特注というか、俺がデザインしたものです。男性用でこういうのあったらいいなと作りました。それを着て、今日はして下さい」
「あのう、他に羽織る物は貸して頂けないんですよね…」
 
 これを着てヤルのと裸のままヤルのとではどちらが恥ずかしいのだろうか。
 間違いなくこれを着る方が恥ずかしいよな〜

「見かけと違って、保温力もありますから、ご心配なく」
 
 心配しているのは、そこじゃない!

「さあ、始めましょうか」
 
 言葉は丁寧だったが、天道寺は『さあ、咥えろ』と言わんばかりにベッドの横で腰に手をあて仁王立ちだ。

 NEXTBACK