嘘だろッ!調教編28 嘘だろッ目次

 天道寺の足が止まる。

「俺に首輪を嵌めて下さい!」

 今だ、と続けて叫んだ。
 だが天道寺は俺を振り返ることもなく、無言で立ち去った。  

「……天道寺は…俺を信じてない……恋人どころか、ペットでもない…。このベッドに降ろされても…今朝までとは違うんだ…」

 ツーンと鼻の奥が痛む。
 こんな筈じゃなかった。
 課長対策の貞操を課長に外された時点で俺は天道寺を踏みにじったんだ。
 どうしてあの時、課長を押し退けて逃げなかったんだろう。
 死ぬ気になれば課長の手から逃げられた筈だ。
 後悔が鼻だけじゃなくて、目にも影響を与えているらしい。
 
 俺、泣きそう……。 
 
 ズズズ、と鼻の中を進む水分を啜り、天井を向いて目の縁で水分を堰き止める。

 泣くものか…俺に泣く資格などない! 
 あんな写真を見せられた天道寺の方が、泣きたかったに違いない!
 やっと想いが通じ合ったのに、俺が天道寺の愛情を疑ってどうする!?
 考えろ、俺! 
 
 天道寺は専務に『俺は拓巳の恋人であって保護者じゃない』って言ってたじゃないか。
 大事なのは、俺が天道寺を好きだという気持ちなんだ。
 信じられないなら、信じてもらえるよう俺が頑張ればいいだけのことだ。
 そうだよ。
 俺はまだ天道寺のマンションにいるんだ。
 放り出されなかったんだ。
 出社する必要もなくなった。
 時間はたっぷりとある。
 頑張れ久野拓巳!
 ここに俺と天道寺の邪魔をする課長はいないんだ!
 腰痛などあっという間に治してやるぞ!
 天道寺と熱く愛し合うんだっ!
 
 ファイ、ト――ッ

「一体、何事ですか!」
 
 突然、寝室のドアが開き、天道寺が入って来た。

「わっ…ビックリした」
「驚いたのは、俺の方です」
 
 調理途中だったのを慌てて来たのか、手には包丁を握っている。

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