嘘だろッ!調教編25 嘘だろッ目次


 「拓巳、あなたって人は……」
 
 世の中、色々と恥ずかしいことはある。
 会社で課長に下半身を晒すこともことも十分に恥ずかしいことだが、公衆浴場やサウナでもないのに、赤の他人に――この場合、救急隊員のお兄さん達に全裸を晒すことも恥ずかしい。
 だが、更なる羞恥があることを俺は身をもって学んだ。

「うわっ!」 

 あってはならないことだった。

「ぅ、ギャァアアッ」

 更にあってはならないことが重なった。
 天道寺の冷たい視線の先にあったもの―――それはこんな状態の中、存在感を見せつけるように俺の下腹部にそそり勃つ棒だった。
 それを天道寺の手が、力任せに握ったのだ。

「…大丈夫ですか?」

 俺の悲鳴に、救急隊員のお兄さん達の顔が、笑いを押し殺していたものから同情一色に変わった。

「ええ、ココはもう大丈夫です」

 俺ではなく天道寺が答えた。

「…そのようですね」

 天道寺の手が離れたそこは萎んでいた。
 可哀想なぐらいシュンと首を垂れ縮んでいた。

「早く病院へ」

 俺の下半身のせいで、天道寺から動揺は消えていた。
 冷静な声で救急隊員に言いながら、俺の腰にバスタオルを掛けてくれた。
 そこは助かった。
 だが一緒に病院まで同行した天道寺の機嫌の悪さといったら、タクシー内の比ではなかった。



「こういうのを天罰と言うんでしょう」
 
 病院から天道寺のマンションに戻ると、天道寺の口から最初に出た言葉がこれだった。

「…骨折じゃなくてヒビだったし…結果オーライってことで…」

 どこかボキッといっているだろう、と思っていたら、尾てい骨にヒビが入っているだけだった。
 鎮痛剤を打たれ痛みは和らいだが、当分は安静にしているよう言われた。
 裸だった俺は、病院で入院患者用のレンタルパジャマとスリッパを借りて戻った。

「拓巳への天罰じゃありません。俺への天罰だと言っているのです。ジッとして下さい」

 スリッパを脱ぐより先に、天道寺の指がパジャマのボタンを外しに掛かる。
 このマンションで、俺に衣類は必要ないものだった。

「自分で脱ぐから」
「うるさい、です」

 どこに天道寺の地雷が隠れているのか分からない。

「…お任せします」 

 しおらしく言ったのだが、

「誰にでも‘任せる’くせに」

 と、嫌味が戻ってきた。

「それは違う。天道寺さんだけです」
「うるさい、ですよ。あの獣にも任せていたじゃないですか。そうそう、救急隊員にも任せたかったんじゃないんですか?」
「…天道寺…」
 
 更なる誤解を生みそうで、言葉が出てこない。。
 

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