嘘だろッ!調教編2 嘘だろッ目次


 あぁ、きっと課長にどやされる。
 そうでなくても、課長にされたことや天道寺の部屋でのあれやこれやを思うと少々じゃなくかなり気が重い。
 まさか職場で天道寺のことは持ち出さないと思うが、それでも嫌味は言われるんだろうな。
 負けない。負けるものか。
 エントランスの自動ドアをくぐったところでよし、と気合いを入れた。

「ぁん」

 バカ、俺! なんていう声を出してるんだ。気合いを入れたら尻が窄まり、プラグに感じてしまった。
 咄嗟に周囲を見渡した。

「…なんで?」

 エントランスホールにいるはずのない人物二人が、俺に視線を向けていた。
 それぞれ自分の課で仕事をしているはずの課長と中が、受付嬢と談笑しながら二人揃って俺を見ている。
 中はいつもと変わらずへらへらとしているが、課長は笑顔にも係わらず目が笑っていない――コレは…もしかしなくても、…かなりヤバイのでは…… 
 足が止まってしまった俺の代わりに、受付嬢から離れた二人がこっちに近づいて来る。

「――おはようございます」

 険しい顔を見せる課長に、遅刻していてお早うはないよなと思いつつ朝の定番挨拶をした。

「今、何時だ?」
「十時…過ぎたところです」
「一週間休暇を楽しんで、その上堂々の遅刻か。偉くなったものだ」

 確かに休暇は楽しかった。
 思い出すと顔が火照るぐらい、充実した濃い一週間だった。

「やっぱあれか? 付き合っている人間が力を持っていると、自分も偉くなったと勘違いしているアホがいるが、久野もその類だったんだ」

 これにはさすがにカチンと来た。確かに悪いのは自分だが、そんな言い方はないだろう。
 そもそも、この遅刻の原因は課長に因るところが大きいんだ。

「――営業は数字だって。内勤の日に俺の存在はどうでもいいって…前に課長が…」

 プラグのことは言えない。
 前に言われたことを思いだし、反論を試みた。
 展示会で数字をあげれば、内勤日は無理をしなくてもいいと言われた記憶がある。
 一週間前の金糸堂の展示会では、余裕の数字をあげている。

「ふん、だからなんだ」

 ギロっと睨まれ、それ以上何も言えなくなった。

「拓巳さ〜、いい訳より遅刻の謝罪した方がいいと思うんだけど」

 課長の横に立っていた中が、真っ当な助言をくれた。
 余計なお世話だ。
 だいたいどうして、中のやつ、此所にいるんだよ。
 中だけじゃない。課長も何故受付にいたんだ?

「……遅刻して申し訳ございません。以後気を付けます」

 疑問を抱えながらも、早く二人から離れたかったので、俺は謝罪した。  


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