嘘だろッ!調教編19 嘘だろッ目次


「拓巳の仕事に同行するのはお断りします。私は拓巳の恋人であって保護者ではありませんから」

 よく言うよ、と外野から野次が飛んだ。
 言うまでもないが、もちろん課長からだ。
 それを無視して、天道寺が続ける。

「展示会場に獣を放置することもお断りします。彼の営業に獣は不必要です。数字の報告なら、電話でもメールでもファックスでも事足ります。獣がいなければ数字がとれないような甘い営業なら、さっさと辞めれば良い。仕事に誇りがあるのなら、それぐらいの覚悟で挑むはずです」
「それじゃ、なにか? 俺のヘルプは必要ない。それで久野が数字を上げない時は、クビでもいいってことだな?」

 課長の確認に、天道寺が

「構いません」

 と返事をした。
 って、俺を無視して進めるなよッ!

「久野は? 久野もそれでいいんだな?」
 
 課長が珍しく真剣な表情で訊いてきた。

「――はい」

 そう答えた俺に、課長がこれまた珍しく同情的な顔を向けた。
 他に答えようがない。
 数字さえあげればクビは繋がる。
 いまここでノーと言おうものなら折角の専務の提案も消えてしまい、直ぐにでもクビになる可能性が大だ。
 どのみち、俺と天道寺の周辺から課長を排除しない限り、いつまた今日のような騒ぎが起こるかもしれない。

「専務は? 提案の内容を雪が変えちまったようだが、それでいいんだな?」
「吹雪先生がデザインに専念でき、二課の売り上げが落ちないのなら、いいですよ」
「ふん、結局雪のシナリオ通りってことか」 

 苦々しく課長が言った。

「何のことでしょう?」
「惚けやがって。まあ、いい。おまえら、そんなことじゃ、長くは続かないぞ。きっと久野は逃げたくなる。そんときはまた俺がお前のケツの面倒みてやる」
「この獣!」

 空気が撓った。
 天道寺が課長を殴ったのだ。
 張り手ではなく、拳で。

「って、自慢の顔に何しやがる! 久野に逃げられたら、お前のケツの面倒もみてやるから、興奮するな」 

 天道寺の二発目が飛んだ。
 だが、それは届く前に専務に阻まれた。

「松野課長、些か悪ふざけが過ぎますよ。もう、課に戻って仕事して下さい。吉田君も一課に戻りなさい。吹雪先生と久野君は、一緒にお引き取り下さい」
 
 帰りたい。天道寺にちゃんと俺の口から説明したい。
 だがまだ視線を合わせてくれない天道寺と一緒に帰るのは少々気が重い。

「失礼します。拓巳、行きますよ」

 俺の気まずさなどお構いなしに、天道寺が俺の腕を掴み歩き出した。

「――お騒がせしました。ご配慮ありがとうございました。失礼します」
 
 と天道寺に引き摺られながら、俺は慌てて専務に頭を下げた。

★宇都木専務は「嘘じゃないッ!」でデザイナー吹雪誕生から課長の松野と天道寺に絡んでいます。過去を二人の過去をよく知る人物です…。
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