嘘だろッ!調教編13 嘘だろッ目次

  中
(あたる)のもっともな意見にぐうの音も出ない。
 ――村上、すまん。
 心の中で謝罪しながら、意識のない村上から下衣を剥ぎ、人肌で温もっているズボンに足を通した。

「中、行こう!」

 下着を履いてないので、下半身の収まりが悪い。
 だが、気にしている場合ではない。

「上着を忘れてるぞ」

 慌てて上着を羽織ると、意識のない村上を一人会議室に残し、専務の所へと急いだ。 

「課長!」

 専務室の入口で、課長が聞き耳を立てていた。

「シッ! 静かにしろ。今からいい場面だ。吉田〜、本当に久野を連れて来たんだ」

 課長が俺の顔を見るなり「連れてくるな、このボケ!」という表情で中に文句を言った。

「当然です。暴走した宗兄を止めるには、松野課長では無理ですから」
「アホ! この状況を楽しんでなんぼだ。吉田、邪魔するなら一課に戻って仕事しろ!」

 犬でも払うように、課長が中を追い払う仕草をする。
 しかし、中も負けていない。

「俺の仕事にデザイナー吹雪の世話も含まれてますから。松野課長、いいんですか? この顔は二課の戦力だったと思いますが。このまだと二課はこの顔を失いますよ」

 中が俺の顎を掴み、課長に俺の顔をアピールする。

「俺は顔だけじゃないぞ!」

 そりゃ、容姿で採用されたことは知っている。
 二課は容姿が採用基準だ。
 だが、それだけじゃ営業は務まらない。
 容姿は客の心を掴む為の入口にすぎない、と俺は思って仕事に励んできた。
 ――が、

「顔だけだ」
「顔だけじゃん」

 二人揃って反論されてしまった。
 営業トークだって頑張ってる! 
 商品知識だって誰にだって負けない!
 と、言い返す間もなく、俺の顎を掴む手が中から課長に替わる。

「確かに、この顔を失うのは困るが…。宇都木のヤロウが誰かにやり込められる姿は滅多に拝めないからな。貴重な場面だ。面白いから久野も聞け」


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