嘘だろッ!調教編10 嘘だろッ目次

 為す術もなく…で、諦めたら終わりだ。
 火事で住処を失ってから、俺の人生は激変した。
 課長に掘られた苦い経験も、天道寺を暴力で犯したという消したい事実も、幸せになるための試練で、通過点だったと思っていたのに、その肝心の幸せが僅か一週間で終わるのか? 
 こんなに短期で終わるなんて、有り得ないだろ。
 それも課長が原因という俺には不可抗力の事態で終わるなんて嫌だ。
 そうだよ、悪いのは全部課長なんだ。
 課長の存在を心配して、天道寺は貞操帯を俺に付けたんだ。
 課長がまともな上司だったら、こんなことにはならなかったんだ。
 だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
 早くここから出ないと。
 考えろ、俺。
 
 どうしたら、いい?
 
 この姿じゃここから出られない。

 あれ? 
 鍵は???
 課長が鍵掛けたはずじゃ…?
 
 一緒にいたみたいだから、開けたのか。
 
 じゃあ、その後は?
 
 閉まったドアから鍵を掛ける音はしなかった。
 天道寺を追いかける課長の声はしたけど。 
 
 ってことは…?
 …え? …嘘だろッ! 
 社内を彷徨かなくても、課長と中以外の社員が入って来たら…
 どのみち、首じゃないかっ!
 ――だったら、…どうせ首ならっ、
 いや、待て!
 
 俺は大事なことを、動揺のあまり失念していた。
 会議室にも内線電話はあるし、携帯はあるはず。
 
 中に連絡できるぞ!
 急いで来てもらおう!
 
 汚れた指をシャツで乱暴に拭いて、携帯を探した。
 ――ないっ!
 上着の内ポケットに入れたつもりだったが、ない。
 入れた記憶のない鞄の中も一応漁った。
 あるはずがない。
 となると…ズボンのポケットか、課長に運ばれた時に落としたか…
 
 こんなことで、落胆しないぞ!
 まだ、内線がある!
 
 気を取り直して、外気に晒された下半身を従え、内線電話の元まで数歩進む。
 しかし、そこで俺を待っていたのは『故障中』という非情な通告だった。


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