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「こういうホテル初めて?」 「はい」 「女の子と来たりしないんだ?」 「付き合ったことないから……」 促されて、ベッドの上に座った。 男がネクタイを解き、上着を脱ぎながら、質問をしてくる。 「泣いていた理由訊いた方がいいのかな? 楽になるなら、訊いてあげるよ」 千明は首を振って拒否した。 「おじさん、俺から思考を取り除いてよ。それだけでいい…。何も訊かないで…。そういうことしたいんでしょ」 「でも、君、ホテルだけじゃなく、するのも初めてだよね。援交するタイプにも、誰それ構わず寝るタイプでもなさそうだし。男と大丈夫?」 「……男の人の方が…いい……」 女に欲情したことなど一度たりともなかった。 隆司以外の誰かに気が向くならと、所謂(いわゆる)オカズになりそうな雑誌やDVD、コミック全て試した。けれど、千明の対象はずっと隆司一人だった。 隆司が彼女を持つようになってからは、女子というのは、嫌悪の対象でしかなかった。 それでもクラスで浮くことを怖れ、必要以上に笑顔を振りまいてきたし、特に隆司の歴代の彼女達には、嫉妬で狂いそうな自分を抑え、かなり気を遣ってきた。 他の男に自分から欲情はしなくても、嫌悪は感じない。 年上のこの男に全て任せて、壊れてしまいたかった。 「途中で恐くなっても、痛くても、泣いても、止(や)めないけど、いい?」 首を縦に振って返事をした。 「自分で脱ぐ? それとも私が脱がす?」 答える代わりに、制服のシャツのボタンに指をかけた。 緊張で指が震えることもなく、恥ずかしい・恐いと初めてなら当然の感情も現れなかった。 「可哀想に」 男が自分も裸になりながらポツリと呟いた。 その言葉の意味はもちろん知っているが、自分の何に同情して発せられたのか千明にはわからなかった。 制服のズボンを脱ぎ、下着一枚になると、制服が皺にならないように、几帳面に備え付けのハンガーに掛けた。 男が脱いだ物まで千明が片付けた。 「ありがと。もういいから、こっちおいで」 中年の域だが、ジムで鍛えているのか男の身体に無駄な脂肪はなかった。 ベッドの上で全裸の名前も知らない男が手招きをしている。 その手に吸い寄せられるように、千明は男の横に寝そべった。 |