人間未満 44人間未満目次


 
「最近、前にも増して仲いいよな、お前ら。ルミと別れたからか?」
 
 以前より一緒にいることが多い千明と戸田の姿に同級生が揶揄を入れる。

「そうか? ま、千明の側は何かと便利だからよ」
「うわっ、出た、相変わらずの主従関係発言。中野、いい加減独り立ちすれば?」
「そうだね。考えとくよ」
「お、中野の独立宣言か? 隆司の側離れて俺たちと遊ぼう、千明ちゃん。最近お前可愛いし」
「てめぇら、いい加減にしとけ。殴るぞ。千明が俺から離れられるわけないだろ。バカほっといて、千明、行くぞ」
「行くぞって、次体育だぞ」
 
 またサボる気か、と同級生の呆れた嘆きが聞こえる。
 隆司がサボるのはいつものことだが、最近はそれに千明が巻き込まれる。
 隆司の成績から、誰も彼の心配はしてないが、さほど成績のいい方ではない千明の心配は皆していた。
 成績優秀者とそうでない者の扱いに、極端な差がある学校なのだ。

「千明の具合が悪いから、保健室だ。それなら文句ないだろ? 千明、具合悪いよな?」
 
 病気、という面での具合は悪くはなかった。
 ただ、肉体的疲労はいつも付きまとっていた。

「そうだね。俺は具合が悪いようだ」
「なんだよ、それ、仮病じゃん。ったく、保健の先生居ないって分かってて、保健室でサボるんだろ。いいよな、隆司は…この学校隆司に甘すぎ」
「うるせぇな。文句があるなら、次の模試俺を抜かせ」
 
 はいはい、と投げやりな返事の同級生を尻目に隆司は千明と保健室へと消えた。

「失礼します、って誰かいるか?」
 
 保健室の中からは、物音一つ聞こえない。

「先公いないのに、来るヤツはいないよな。千明、貸し切りだ」
 
 ガチャリと内側から隆司が鍵をかけた。
 その瞬間、隆司の態度が豹変した。

「痛いっ、隆司、」
 
 隆司に腕を捻りあげられ、激痛が千明を襲う。

「さっきの考えとくって、なんだ? 俺から独立? 本気でそんなこと考えているのか?」
「…っ、放せっ、……」
 
 更に無理な方向へと隆司が力をかける。

「どうなんだ?」
「…ほん…きっ…じゃ…ないっ……」
「ふうん、そうか。千明は俺の便所がいいんだ」
「……そ…う、…だよ……」
「さすが変態だけのことはある」
 
 やっと千明は腕を解放された。
 しかし、今度は手首を掴まれ、カーテンで仕切られたベッドの方へ隆司に引っ張られていった。
 ドンと、千明は隆司に突き飛ばされ、腰からベッドに沈んだ。

「ほら、親父に電話しろ。今から俺の相手をするから、ベルト外していいか許可を取れ」
 
 千明に隆司が自分の携帯を投げつけた。
 ラブホテルの一件で学習したのか、隆司も千明を芯から痛めつけることは避けたいらしい。
 あれ以来、自分が千明を使う時はベルトを外すよう仕向けている。

「…いい、自分の使うから…」
「ふん、勝手にしろ」
 
 奴隷という立場で、主人と違う人間の相手をするのだ。 
 従属の意味を持つベルトを外すことに、事情が分かっている雅紀は当然許しを与える。
 一方でそれは雅紀との関係ではお仕置きの理由になっていた。
 痛む腕をさすりながら、千明は自分の携帯を取りだし、短縮キーを押す。

「…はい、俺です。学校です。ベルトを外してもいいですか? …そんな……分かりました…伝えます。ありがとうございます」
「なんだって? いつもより、長かったな」
「外してもいいけど、自分で取るなって。隆司に取らせろって」
 
 隆司がムッとした表情を見せた。

「変態二人のお遊びごとに、俺を使う気か。我が親ながら、呆れるよな。尤も、それと付き合っている千明にはもっと呆れるけどよ」
 
 準備をしろと、命じられ千明は下衣だけ脱ぐ。
 隆司が千明を気遣って前戯を施したり解したりすることはない。
 受け入れやすい準備をすることまで、千明の仕事だった。
 いつでも隆司に応えられるよう、千明はポケットにいつもジェルを忍ばせていた。
 チューブから取り出した冷んやりとするジェルを指にたっぷり付けると、千明は自分の窄みを解しに掛かる。

「何度見てもすげぇよな。自分の尻に指突っ込めるんだからよ。俺が気持ち良くなるように、よ〜く、解せよ。ほら、こっち向けよ」
 
 隆司がベッドに上がり、千明の陰茎のベルトに手を伸ばす。
 隆司が千明の性器に触れることは珍しく、隆司の指が触れただけで、千明の身体に緊張が走った。


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