人間未満 42人間未満目次


 
「千明、声が出てないぞ。声が出ないくらい、感じているのか? さすが変態。しかも、淫乱だな」
 
 締め付けられ、血行が妨げられ、変色をはじめた陰茎を隆司がピンと指で弾いた。

「ヒィッ…」
「声出るじゃん…俺、そろそろ、限界」
 
 声を出せと、更に前を弾かれ、千明の意識はもう半分飛んでいた。
 隆司が吐き出す為に、動きを速くする。
 隆司は自分の精を吐き出すことに集中しているのか、千明の様子がおかしくなったことに、気が付かなかった。

「うっ」
 
 隆司が千明の中で果てた。
 ―――これが……隆司の…………
 微かに残る意識で、隆司の温かい精液を感じ、千明は失神した。

「おいおい、千明、起きろ。延長料金掛かるだろ」

 隆司が千明の頬をペシペシと叩くが千明が起き上がらない。
 ぐったりとして、薄目だけを何とか開けている状態だ。

「おいっ、千明っ、いい加減にしろ。置いていくぞ。服着ろ」
 
 肩を掴み、無理矢理上半身を起こしたが、隆司が手を放した途端、バタンと千明の身体はベッドに沈んだ。
 そこで、やっと隆司は千明の異変に気付いた。

「具合が悪いのか? 千明、千明っ、くそっ」
 
 自分が千明を痛めつけたのかと、急に隆司は青くなった。 
 無茶をし過ぎたのかも知れない。
 特に知識があるわけじゃない。
 原因がわからないが、千明が目の前で動けないことだけは確かだった。
 携帯を取り出すと、一番頼りたくない相手に連絡を取った。

「親父、ちょっと来てくれ。あんたの奴隷が変なんだ。ぐったりしてる…ああ、ホテルにいる…仕事中か? 救急車呼んだ方がいいのか? …待ってる」
 
 切った後、携帯を壁に叩きつけた。
 今まで千明を暴力から守ることはあっても、自分が傷付けたことはなかった。
 大切に守ってきた相手を自ら穢してしまった。
 それでも、千明に裏切られた、許せないという気持ちの方が強い。
 千明が隆司を受け入れ混乱していたのと同様、隆司もまた混乱していた。
 大切だと思ってきた気持ちと同じ分量で、憎かった。

「クソッ、親父に俺がしたことがバレちまうのか。あいつと同じことしたって、それ見たことかって、ほくそ笑むよな……。何で、千明…親父なんかと………お前が悪いんだよ。俺のせいじゃない……千明が悪いんだ…」
 
 自分が千明の中に放出したものを掻き出してやるということも、隆司は知らなかった。
 ただ、行為を終え、自分だけがシャワーを浴びた。千明は身体を拭いてもらうこともなかった。
 ぐったりした千明に布団だけ被せると、隆司は備え付けのソファに座り、父親の到着を待った。
 隆司の苛立ちを象徴するかの如く、灰皿の中に煙草の吸い殻が山になっていた。

「おい、開けろ。俺だ」
 
 早退した雅紀がやって来た。
 気まずいが自分が呼び寄せた雅紀を出迎えないわけにはいかず、隆司がドアを開けた。



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