人間未満 36人間未満目次


 
「ちょっと、見せてごらん。裂けたかもしれないから」
 
 雅紀が千明の股を割り顔を近付けた。

「少し切れたね。消毒してあげよう」
「…あっ」
 
 雅紀の舌が千明の傷の上を動く。

「…あっ…あぁ…」
「どうした? 染みる?」
 
 千明の身体は客の手から逃れた安堵感から、雅紀の動く舌に素直に感じ始めていた。
 分かっていて雅紀が意地悪く尋ねた。

「…大丈夫です…」
「じゃあ、どうして千明の口から声か漏れるのかな?」
「…気持ちいいからです」
「素直な子は好きだよ。今日は中も綺麗にしたし、いっぱい可愛がってあげよう。それとももう疲れた? 私はまだ今日何もしてないから、千明と遊びたいけど。奴隷の千明は主人の私の希望を叶えてくれるよね?」 
「…はい…俺も…やりたいです」
 
 千明っ! おまえ―――っ!
 
 隆司は、千明の言葉に怒りが込み上げていた。
 
 男相手に、親父相手に自分からやりたいと言うのかっ!
 
 怒りで皮膚に爪が食い込むぐらい、拳を握りしめていた。
 千明の言葉を受けて、雅紀が隆司を振り返り、勝ち誇ったような笑みを隆司に向けた。 
 雅紀が千明の胸の愛撫を始めた。
 千明から甘い声が洩れ始めると、隆司は屋上で千明の乳首を悪戯したことを思い出した。
 まさきって…あの時に言ってたまさきって、このクソ親父のことだったんだ。あの頃既に親父と千明は…

「…あぁ…あっ…う…」
「千明は乳首痛くされるの好きだね」
 
 雅紀の歯が千明の乳首を噛む。
 感じているのが、千明の声から隆司にも伝わった。

「また、ヌルヌル出てきた。こっちも触ってあげよう」
 
 雅紀の手が千明の雄芯に伸びる。
 千明が自ら腰を動かし、感じようとしていた。

「そろそろ、千明の中で遊ばせてもらうよ?」 
 
 指を一本千明の内部に挿入し軽く解してから、雅紀が穿いていたズボンと下着を膝まで降ろした。

「…うっ…ぁぁああっ、まさきっ…さんっ…」 
 
 隆司の見ている前で、雅紀は自分の腰を千明に打ち付けた。
 苦悶の声は一瞬で、悦びの嬌声をあげる千明にこともあろうか、隆司の身体は反応を示した。
 股間が痛かった。
 抱きたい、と思ったのだ。
 
 クソッ、何で親父が千明に突っ込んでるんだっ! 
 千明もなんだっ! これじゃあ、女じゃねぇかよっ!  
 女なら、俺が抱いてやるっ! 
 
 何考えてるんだっ…俺……。
 違う!
 俺はホモでもゲイでもないっ!
 コノヤロー……どいつもこいつもっ
 
 ドンと部屋の扉を隆司が拳で殴りつけた。
 その音に気付いたのは雅紀だけだった。
 千明と身体を繋いだまま、雅紀が隆司を見た。
 その顔は父親の顔ではなかった。
 男として、隆司を蔑
(さげす)むような顔だった。
 自分が嫌っていた同性愛を好む男に、お前の方が下なんだよ、と言われている気がした。
 隆司は逃げるように部屋からもマンションからも姿を消した。  


 NEXTBACK