人間未満 34人間未満目次


 
「もう、お客様は来ないはずだが?」
 
 客が二本目のバイブを千明に挿入しようと手にしたとき、玄関のチャイムが鳴った。

「ちょっと、失礼しますよ」
 
 雅紀が千明を客の手に委ねたまま、訪問者の対応に部屋を出た。

「…隆司」
 
 覗き窓から自分の息子の顔を確認した雅紀は正直驚いた。 
 隆司がここに来るはずはないのだ。急用か?

「親父、いるんだろっ、開けろ!」
 
 バンとドアを蹴る音がした。機嫌が悪いのがわかる。

「乱暴だな。何か用か?」
 
 ドアを開けながら、用件を訊いた。もちろん、中に入れるつもりはない。

「携帯に電源ぐらい入れとけ。何だ、普通に服着てるじゃないか。最中かと思ったぜ。会社から電話あった。緊急の用事らしいぜ。どうしても親父と連絡が取りたいって」
「緊急?」
「ああ、松島とかいう人に頼まれて、ここまで来てやった。電話してやってくれ。クビがどうこう言ってたぜ」
「わかった。用件はそれだけか?」
「わざわざ来てやったのに、息子にお茶も出さないのか? 冷たてぇな…全く…」
「お前、ここ、嫌いだろう。今日は客も来ててな…悪いけど」

…ひっ…や……』 
 
 千明? 
 まさかな…千明の声に聞こえた。

いたぁああああっ…たす…けっ………』
 
 はは、そんなわけ…
 隆司がドアを思いっきり引っ張った。

「お、おいっ、隆司」
 
 玄関先に並んだ靴を確認した。
 オッサン臭が漂ってきそうな革靴が並んでいたが、一つだけ、見覚えのある白いスニーカーが混じっていた。

『…あっ……たすけっ……』
 
 何が何だか分からなかった。
 隆司の頭は真っ白で、ただ声のする方に行かなければとそれだけで身体が動いた。
 声の洩れる部屋の扉を開けると……
 隆司は目の前の光景に…男達に四肢を押さえ込まれ、バイブを突っ込まれ、口から泡を噴いている―――目隠しをされた自分のよく知る少年…に、驚愕のあまり身体が硬直してしまった。
 千明だ!
 助けないと!
 どういうことだっ!
 追ってきた雅紀が、隆司の蒼白とした顔を見て、ヤバイと感じた。
 手はそれぞれ白くなるくらい握りしめられ、身体全体が怒りのオーラと共に震えていた。
 雅紀は、隆司が客達に無礼を働かないよう、口を手で塞ぎ、震える肩に手を置いた。

「千明を助けたかったら、声を出すな。いいか? あの子自ら進んでやっていることだ。奴隷のテスト合格のために。俺は今彼と付き合ってる。意味分かるよな? 合意の上だ」
 
 奴隷? なんだソレッ!
 合意? そんなわけ、あるかっ!

「証拠を見せてやるから、お前の気配、千明に感じさせるな…向こうで待ってろ。今、客を追い返して、千明を解放してやるから。ここで、お前が暴れると、俺も客も千明にも迷惑なだけだ。助けたいなら、言うこときけ」

 耳元で父親に囁かれた。



 NEXTBACK