人間未満 33人間未満目次


 
 誰もいねぇのかよ。しつこいな。
 普段携帯ばかりの利用で、家電が鳴ることは珍しい。
 家政婦も帰宅しているのか、誰も電話に出る者がいないらしい。
 そのうち切れるかと、ほったらかしていたら、一度切れた。
 諦めたかと、隆司は今日買ったばかりの漫画雑誌を手に取る。
 すると、直ぐにまた電話が鳴り出した。
 マジ、うぜぇ。
 これで間違い電話だったら怒るぞっ、と自室を出て階段を降りた。

「はい、戸田ですが」
『あの、松島と申しますが戸田部長はご在宅でしょうか?』
「親父? あ、父なら留守みたいですけど」
『今日は一日ご自宅だと仰有っていたんだですが…携帯にも出られなくて。済みません、至急、連絡をとりたいのですが、心当たりはありませんか? 緊急なんですっ!』
「ないことも、ないけど…あそこに電話ないし…、携帯でないってことは、電源オフってことだし、悪いけど…」
『お願いします。何とか居場所だけでも…』
 
 心当たりの場所はあった。
 しかし、そこにいるということは、会社の人間には教えられない。
 絶対他人には、教えたくない、隆司にとって鬼門の場所だ。

「場所は、悪いけど教えられない…すみません」
『あの、息子さんですよね? 連絡が取れないと、部長も我々もクビになるかも知れません。生活困りますよね?』
「…あんた…、松島さんだっけ? 何言ってるの?」
『脅してすみません。今日中に連絡が取れないと、会社に大きな損失を与えてしまうのです。とにかく、なんとかなりませんか?』
 
 あいつにクビになられたら、俺の生活費はどうなるんだ? 
 俺の学費は? 
 小遣いは? 
 それだけの為に表面上仲の良い親子の関係維持してやってるんだっ。あんな外道
(げどう)と。

「ちょっと時間が掛かってもいいなら、親父から連絡させます。今四時過ぎだから、五時過ぎでもいいですか?」
『構いませんっ! ありがとうございますっ!』
 
 絶対こいつ、今受話器片手に頭下げたよな、という勢いで礼を言われた。
 中に入ったことはないけど、あいつが借りているマンションの場所は知っている。
 行くしかないか…

「じゃあ、そういうことで」

 はあ、面倒くさい。
 親父から小遣いたんまりせしめてやるからな。
 あの場所にいるとしたら、男も一緒か。
 最中だったら、相手の玉でも潰してやろうか? 
 触ると、手が腐れるか。
 足で踏めばいいか? 
 
 本気でそんなことを考えながら、隆司は雅紀が別に借りているマンションへと向かった。



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