人間未満 32人間未満目次


 
 どれくらい待っただろうか?
 長く感じたが、もしかしたら五分も経ってないかもしれない。
 数人の足音と共に、雅紀が戻ってきた。

「お客様だよ、千明。いいかい、これからが、お仕置きとテストだから。何をされても、逆らったら駄目だよ。嫌だと言った段階で不合格だから、お客様の誰かに千明を預ける」
 
 額に雅紀がチュッとキスをした。
 耳元で、頑張りなさい、と囁かれた。

「色の白い子だね。肌触りも良さそうだ」
「へえ、まだかなり若そうだ。良い子を掴まえたものだ」
「今日の宴は、この子のお披露目か? 結局、若い子に走ったんだ。初々しいのは結構」
 
 何人いるのだろう。
 気配では四.五人はいるようだ。全て男性だ。
 声の感じからして、そう若くはないだろう。
 お仕置きと言っていたが、今日は最初から客を招く予定だったんだと、千明は悟る。

「好きなだけ、お触り下さい」
 
 雅紀の声がし、千明の身体を覆っていた布団が剥がされた。
 一斉に男達の手が伸びる。
 誰一人遠慮も躊躇(ちゅうちょ)もしない。
 千明の身体のあらゆる所の感触を確かめるように、触ってくる。
 乳首を引っ張る手もあり、太腿からペニスへと上がってくる手もあり、逆に太腿から、後ろの窄まりへと下がっていく手もあった。
 抓るようなことはなかったが、次第に男達の手の動きが愛撫に変わっていった。

「…あっ…」
 
 堪らず、千明の口から声が洩れた。

「本当に千明は淫乱だ。誰でもいいのか? 私以外の人間に触られても悦ぶなんてね」
 
 誰でもいい訳ではない。
 主人としての雅紀がいるから、他の人間は雅紀がいつも千明に使用する道具と同じだった。

「いい声を出す子だ。加虐心をそそられる。君が嵌るのもわかるな。泣かせてもいいんだろ?」

 客の一人が雅紀へ訊く。
 あくまでも、千明の所有者、主人は雅紀なので、その了解無しには好き勝手は出来ないらしい。

「どうぞ。いい声で啼きますよ。器具も結構慣れてますし。痛みも好きな子ですから。そうだよね、千明?」
「…はい……」

 一人が千明を胸に抱え、二人が千明の足を左右に割った。 
 大の字で宙に浮いた形になると、一人が千明の窄みに指を入れてきた。

「浣腸済みか。ここで遊んでもいいってことかい?」
「どうぞ。お好きに」
 
 指で少し弄られたあと、潤滑ジェリーをたっぷりと塗られ、バイブが挿入された。

「…あぁああ…うっ……」
「本当にいい声だ。何本まで入る?」
「この太さだと、二本はいけますね」
 
 二本は無理だと、身体が竦んだ。
 今までにバイブ類を数本挿入されたことはあるが、それはアナル用の細いタイプのものだった。
 今挿入されているのは女性の膣にあわせた大きさだ。
 一本で普通の男性の一物と変わらない大きさある。
 それを二本の経験はなかった。 
 嫌だ、恐いっ、と言えない代わりに、身体を捩
(よじ)って逃げようとした。途端、頬に平手をくらった。

「千明、それでいいのかい? 逃げたら不合格だよ。お仕置きなんだから、恐くて当たり前だ…バイブぐらいどうってことないだろ?」
「…は…いっ、う、」
「大丈夫だから、もう千明のここはグチュグチュだし、緩んでいるよ」
「ァああっ…、あう…」
 
 バイブの振動が激しくなり、男がせわしなくバイブを動かす。

「二本目にいこうかね。君なら悦んでもらえそうだ」
 
 危ないからと布団の上に降ろされた。
 身体をU字に曲げた形で左右の足首を別々の男が持つ。 
 赤ん坊のおしめ替えのような形だ。
 千明の身体が震えている。くわえ込んだままの一本目のバイブの振動からではなく、恐怖からだ。
 奴隷だからとか、お仕置きだからとか、テストだからとか、そんなことは布団の上で身体を固定されてから吹っ飛んだ。
 ただの排泄物を出す穴と、女性のソコは違うのだ。
 女に出来ることかもしれないが、自分の穴が、そこまで広がるとは千明には思えなかった。
 身体が二つに裂けるオカルト映画のシーンが千明の脳裏に浮かんだ。 
 決して声に出すことは出来ない名前を、心の中で叫んでいた。
 助けてくれるはずのない大好きな男の名前を必死で叫んだ。

「…あう…あう…」
「挿す前から、もう昇天しているのか?」
 
 千明の隆司を求める声は、ただの呻き声にしかならなかった。
 
   隆司っ! 助けて―――……!


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