人間未満 31人間未満目次


 
「…前を…ベルトを……取って下さい…」
「本当に、千明は変態に育ってしまったね。浣腸されて、前を勃たせる子は見たことないよ」
「…お願い…しますっ…」
「あと、二分我慢できたら、取ってあげよう。畳に粗相はだめだから」
 
 雅紀によって、千明は被虐の中に快感を覚えるようになっていた。
 精神的な苦しさが続いた代償だろうか? 肉体的な苦しさが千明の身体に変調をきたすのだ。
 千明の身体が震え出す。
 それを待っていたかのように雅紀がローターを千明の肌に這わせる。
 胸、背中、脇腹、と緩やかな責めを加えていく。
 その目は何故か優しく、満足の笑みを浮かべていた。

「よし、取ってあげよう」
 
 雅紀の手が千明に施されたベルトに掛かる。
 それだけで、千明の身体に微弱な電流が走る。
 手際よくベルトが外されると、今まで堪えていたものが、一気に放出された。

「粗相は駄目だって言っただろ。排泄だけじゃないよ。これも粗相だよ」 
 
 後でお仕置きだと告げられ、トイレへの許可がおりた。 
 てっきり、洗面器が待っているのかと思っていた千明は、ホッとする。
 人前での排泄ほど、自分が人間ではないと感じることはない。
 雅紀が言うには、奴隷は人間であるが、人としての尊厳は無視される存在らしい。
 奴隷に個室のトイレは贅沢で、それを使用させる自分は優しい部類の主人だと言う。
 個室から出ると、雅紀が立っていた。

「今日は特別なお仕置きだから、シャワーも浴びて、中も綺麗にしておいで。ちゃんと指を挿れて、洗いなさい」
 
 特別なお仕置きが何であるか、千明は訊かない。
 もちろん、気になって仕方がなかったが、奴隷は考えるなと言われている。
 はい、と返事をすると、浴室へ向かった。
 雅紀に指示されたように、内部の洗浄も終え、千明が出てくると、雅紀が丁寧に身体を拭き上げてくれた。
 部屋に戻ると、畳の上にいつもと違う布団が敷かれていた。驚くのがその色だ。真っ赤な寝具。
 淫猥な色の寝具に、横になるように指示され、千明はその上に横たわった。

「お仕置きの意味もあるけど、今日は千明が本当に私の奴隷になったのか、テストさせてもらうよ。主人の私の命令に全て応えられるかどうか。不合格なら、他の人間に預けて再教育だ」
 
 他の人間?
 雅紀以外の人間?
 千明の中で恋愛感情のベクトルは相変わらず隆司を向いていた。
 しかし、身体はすっかり雅紀に慣らされていた。 
 雅紀に何をされても、順応出来る。雅紀以外の人間から、奴隷の扱いを受けることを、一度たりとも考えたことがなかった。
 ある意味、雅紀は千明にとって特別な存在になっていた。
 横たわった千明の目を雅紀が赤い布で塞いだ。視界を遮られ、これからどんなテストが始まるのかと、千明の身体に緊張が走る。
 雅紀以外の人間は恐い。
 雅紀でも恐かったのだ。
 慣れない暴力を振るわれ、死ぬ程恐ろしかった。
 テストに合格したいと、心の底から思った。

「そのまま、待っていなさい」
 
 裸で目隠しをした状態の千明に、掛け布団を掛けると、雅紀は部屋を出て行った。



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