人間未満 17人間未満目次


 
 目が覚めると、千明は見知らぬ部屋の布団の中にいた。

「お早う。意外と早く目覚めたね。どうだい、気分は悪くない?」
「…おじさん…俺は…」
「暴れられても面倒なので、少しの間眠ってもらった。雅紀だ。二人の時は今日から雅紀と呼びなさい。覚えているだろ? 千明は今日から私の愛人だ」

 覚えていた。
 千明は愛人になることを承諾したのだ。
 するしかなかった。

「寒くない?」
 
 雅紀の問いが何を意味するのかぼうっとする頭でも直ぐに分かった。
 千明は真っ裸にされていた。
 裸に直接布団を掛けられていた。
 梅雨の蒸し暑い外とは違い、マンション内はエアコンが効いていた。
 布団の隙間から冷気が流れ込んでいたが、寒くはなかった。
 それよりも、羞恥で身体が火照った。

「おじ…雅紀さんが、服、脱がしたんだ」
「そうだよ。邪魔だろ? もう千明の裸は隅々まで知っている。恥ずかしがらなくていい」
 
 服を着たままの雅紀が、裸の千明の横に滑り込んできた。

「この間は痛いだけで終わってしまったからね。記念すべき千明の愛人初日として、今日は千明の身体に『悦び』を教えてあげよう。私を悦ばせるのが君の役目だけど、自分でわからないと、出来ないからね。暴れないって、約束できる? 暴れるなら縛るけど」
「…あばれません」
「震えているね。大丈夫。怖いことはしないから。まだね。今日は安心してなさい。いいかい? 君は私が望むことに拒否してはいけないよ。分かった?」
「…はい」

 もう、引き返せない所迄来ていた。
 イヤ、最初から、この男と出会った時から、残酷な歯車は回りはじめていた。
 それも、違う…隆司に恋をしてしまった時からこうなる運命だったのかも知れない。
 千明は諦めと覚悟で返事をした。

「いい子だ。はじめよう」
 
 千明の唇に雅紀の唇が重なる。
 
 …ファーストキスが隆司の父親……
 
 目を閉じ、されるままに身体を預けた。
 雅紀の舌が千明の唇をこじ開けるように入ってくると、煙草の苦み走った味が口内に広がった。
 バードキスさえしたことにない千明の口を雅紀の厚くて熱い、ネットリとした舌が犯す。
 雅紀の動きにどう応えればいいのか分からなかった。
 鼻で呼吸するのさえ、苦しくなって気付いた程だ。
 そんな初心(うぶ)な千明が面白いのか、雅紀の舌はしつこく千明の口内を探索した。
 舌同士絡めることを覚えさえ、歯列をなぞる。
 唇を軽く噛んだり、口を塞いだまま息を吸い込んだりと、無言で口も性感帯の一つであることを教え込もうとしているようだった。

「どう、キスも感じるだろ? 身体、熱くならない?」
「あっ!」
 
 雅紀の手が千明の中心に伸びた。


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