人間未満 15人間未満目次 |
「あの…、どこに?」 「内緒。と言いたいところだが、私の部屋だ」 「それって…」 退院して初めての週末。 千明は隆司の父親が運転する車の中にいた。 退院した日に、カードにあった番号に連絡を入れると、待ち合わせの日時と場所を指定された。 学校では何もなかったように、隆司と接した。 相変わらず、隆司はリサと授業をふけたり、千明の目の前でイチャついたりしていたが、これまで同様、胸に刺さる棘の痛みを押し殺す生活に変化はなかった。 爆発した千明の気持ちが無駄だったと思うほど、千明と隆司の間は何も変わらない。 変わってしまったのは、千明には更に違う種類の痛み――隆司に絶対知られてはいけない秘密――が増えたことだけだ。 その秘密を守る為に千明は呼び出しに応じ、今、隆司の父親の横にいる。 「家じゃないから、心配はいらない。別に部屋を借りているんだ。あの家はどうも落ち着かなくてね…。それとも、隆司のいるあの家の方が良かった?」 「…」 「君があの時、助けを求めた『りゅうじ』が、まさか、自分の息子だったとはね。でも、君、千明君を追い詰めたのも、うちの愚息なんだろ? 君はうちの隆司が好きなんだ。友人としてではなく、違う?」 「……」 答えられなかった。 答えないことが肯定を表していた。 「そうなんだ。やっぱりね。だから、私の言うなりになるしか、道は無しか…」 流れる景色を見ながら、秘密を守るためなら、何でもするしかないと、千明は覚悟を決めていた。 「さあ、どうぞ。安心していい、ここに隆司は来ないから。リラックスして…」 着いた先は、2LDKのこぢんまりとしたマンションだった。リビングのソファに腰を降ろすようにいわれ、座って待っていると、男が紅茶を運んできた。 「まずは、話でもしようか?」 ティーカップを渡された。 「…おじさんは……」 「何? 何でも話してあげるけど?」 「…ホモ…なんです…か?」 「面白いこと訊くね。女性も好きだよ。じゃないと、君の好きな隆司が生まれてないだろ」 そうなのだ。 自分を抱いたこの男は正真正銘、隆司の父親なのだ。 この顔立ちが実父だと物語っている。 「…いつも、こんなことを」 「こんなことって? 男の子と寝てるのかという意味?」 千明がこくりと、頷いた。 「まさか、犯罪になるようなこと、そう簡単にするわけないだろ。でも、君は路上で見かけたときから、何故か放っておけなくてね。千明君は、私から無理矢理やられたと思っていると思うが、誘ったのは君だよ? 私は何度も念を押したし、帰るチャンスはあった。違う?」 違わなかった。 壊してと、頼んだのだ。 自分がこの男を利用しようとしたのだ。 |