人間未満 12人間未満目次


 
 廊下までは同じ小学校からの子と一緒だったのだが、教室の入口からは一人だ。
 今日から新学期の教室は、席を確認するために入口に座席表が貼ってあった。
 初めての教室に、小声で「お早う」と入っていくと、一斉に視線を向けられた。
 女子も男子も友達同士固まって、興味深そうに千明を観察している。
 クラス替えはあったにせよ、別の小学校からの人間が混じるのだ。
 子どもの剥き出しの好奇心が新参者に向かうのは必然だった。
 ジロジロとした見られる居心地の悪さに、千明はすっかり萎縮してしまい、誰かに話しかけることも出来ず、隆司に声を掛けられるまで、一人無言で席に座っていた。

「俺、ラッキーかも。新しいヤツのとなりなんて、ワクワクする。えっと…センメイ?」
「センメイ?」
「それ、千っていう漢字と、明るいっていう字だろ。センメイって読むんじゃないの?」
 
 一人自己紹介を終えた隆司が、千明の胸の名札を指している。

「ちあき。女みたいな名前だけど…」
「いいじゃん、千明か。千個も明るいって、なんかめでたい気がするし、未来が明るいみたいで楽しい。俺なんか、ただの隆司だし…」
 
 千個も明るい? 
 めでたい? 
 ただの隆司?
 
 思わず、吹き出してしまった。

「ははっ、隆司、って呼んでもいい?」
「俺、おかしなこと、言ってないと思うけど。ま、いっか。いいぞ、隆司で。俺も千明って呼ぶからよ」
「いいよ」
「じゃあ、俺がお前のこの学校での友達一号ってことで。ヤッタね」
「友達?」
「ああそうだ。見てみろよ。ま・わ・り」
 
 見回すと、やはりクラス中の視線が千明に集まっていた。

「みんな、千明に興味あるんだよ。ざま〜みろ。声掛けそびれて遠巻きで見てるしかできないだろ。俺は席が横でラッキーだった。お前、何か性格良さそうだし」
「そんな、性格なんて、まだわかんないじゃん。今会ったばかりなのに…」
「判るよ。俺が声掛けても無視しなかった。うん、千明は性格がいい」
「それだけで、そう言われても…」
 
 あんなに親しげに自己紹介されて、無視できるヤツなんているだろうか?
 短い時間に、千明はすっかり隆司に好感を持ってしまった。
 初めての学校、初めてのクラス、けれど緊張は隆司に会ったことで払拭された。
 少しとろい所がある千明を、隆司はさりげなくカバーしてくれたし、隆司を通じて、友人も増えた。
 一緒に過ごしていくうちにお互いの境遇が似ていることも判明した。
 二人とも両親が離婚をしていた。またどちらの親も仕事人間で、家を空けることが多かった。 
 境遇が似ているせいか、気が合うことが多く、短い期間で親友同士と互いが認め合うまでになった。

                              
                              ☆


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