獣以上 7獣以上目次 |
淫行条例に触れるようなことも、かなりの数やって来た。 仕事も人一倍こなすが、遊びも半端ない。 据え膳であろうがなかろうが、好みであれば寝る。 日本より、世界を飛び回る期間の方が長かった為、海外のいかがわしい倶楽部で知り合った富裕層の遊び仲間も多い。 ニューヨーク出張前に『薔薇の刺』で会った柴田も、その一人だ。 仕事は恐ろしく出来るが、家庭を顧みない軽い男。 遊ぶにはいいが、深みに嵌るとバカをみる。 これが会社での雅紀に対する女子社員の評価だ。 バツイチでも、雅紀ぐらいのエリートなら、社内でも相当もてそうだが、雅紀に遊ばれ捨てられた者が多く、離婚の原因も雅紀の酷い浮気が原因と囁かれていた。 それでも、雅紀の下に配属直後の新人は、男女を問わず、雅紀の仕事ぶりとその容姿にほだされ、熱い視線を送ってくることもあるが、先輩社員の忠告が入っているのか、その熱も一ヶ月経たないうちに冷めるというのが現状だ。 昔、一途に相手を想う恋愛に嵌っていた言っても、今の遊び仲間からは、「冗談」のひ一言で済まされるだろう。 会社の上司同僚部下、誰一人として雅紀の一途な恋など信じないだろう。 だが、雅紀が恋愛をしていた期間は本当に存在していた… 「お父さん、…一緒に寝てもいいですか?」 「怖い夢でも見たのか?」 「…みんなボクを置いて出て行く…。ボクだけ、要らないんだ…」 「なんだ、ソレ?」 雅紀が四才の息子を持つ比奈子と結婚してから、五年。 雅紀の寝室に、比奈子の姿はなかった。 彼女は、ほぼ毎晩、五才になった隆司と寝ていた。 隆司が甘えん坊で、母親を独占してないと、寝付かないのだ。 小学生に上がれば、学校でのお泊まり行事もあるので、いい加減一人でも寝られるようしないと行けない時期に差し掛かっていたが、比奈子も隆司を溺愛していた為、あと少しの間は、と甘やかしていた。 「夢。ボクだけ、置いていかれる夢…。ボクは、…お父さんの本当の子じゃないから…だから…」 「ほら、ベッドに入ってこい。幸司だって、本当は比奈子と一緒に寝たいんだろ? お兄ちゃんだからな。甘えられず、寂しいんだ」 九才になれば、自分の家庭での位置が分るのか、幸司は自分だけが家族の外に置かれているような気がしていた。 母親と弟と父親は、丸い輪で、同じグループにいるのに、自分だけは違う。 母親は本当の親だが、自分とは血の繋がってない父親との間にできた弟ばかりを可愛がる。 父親は、依怙贔屓なく自分も可愛がってくれる。 優しくて、ハンサムで、キャッチボールの相手もしてくれて……幸司は父親が大好きだった。 だが、本当の子どもじゃない自分が、どこまで甘えていいのか、距離感が分らない。 弟ばかり可愛がる母親よりも、父親にもっともっと甘えたかった。 でも、父親も本当は自分より血の繋がった弟の方が可愛いに決まっていると、幸司は思い込んでいた。 そのせいか、いつか自分はこの家族から捨てられる、という不安が幸司にはあった。 |