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――それにしても、その責任者が日本でいうなら新卒と変らぬ年の幸司とは。 大学を中退したとは聞いてないが、一体いつからATで働いているんだ? 実力主義のアメリカでも、驚異的なスピード出世じゃないのか? 「本日の資料をお持ちしました。企画書が三部入っています」 案内された執務室に幸司の姿はなく、リチャードから資料を手渡された。 「ありがとう。戸田代理、…いや、幸司は?」「彼は、今、ブレイクタイムです。急な来客があったもので…」 客の接待をしたから、休憩を取るというのは変な話だ。 アメリカのビジネススタイルにケチを付けるつもりはないが、彼等は自分達の権利には煩いので、休憩時間に来客があったなら、その分余分に取るのだろう。 …俺が来ると知っているなら、サッサと顔を出したらどうなんだ… 「休憩中ですか」 「戸田部長がお待たせすることを詫びるよう、言付かっております」 「詫びる必要もないと思うが」 「日本では、休憩を取らずに働くのが普通でしょう?」 「君は、意外とステレオタイプだな。まあ、色々だよ。私は休憩を取るタイプではないが、だからといって、我が社に休憩時間がない訳でもないし、一服するぐらいの自由はある。客を待たせてまでも休憩を取るかといえば、それはノーだが」 雅紀の嫌味に気付いたのか、リチャードは、ははは、と笑って受け流した。 結局幸司は、執務室には姿を見せず、会議室で提案者によるプレゼンテーションが始まってから現われた。 プレゼンの内容は、共同プロジェクトで進めているAT開発の美容成分入りコスメの国内でのアンテナショップの展開についてだった。 有名百貨店、エステティックサロン、皮膚科や美容整形での医療関係の三つの発案があり、今日の段階で二つに絞られた。 「百貨店での展開は、年齢層が限られてくる。二十代三十代のデバート離れが進んでいるのが現状だ。エイジングケアだけならそれでもいけると思うが…話題性にもイマイチ欠ける。普通すぎる」 という雅紀の発言で、百貨店は没になった。 発言するくらいだから、もちろん仕事をするためにその場にいたのだが、一方で自分の前方に座る幸司が気になって仕方なかった。 直々に呼び出したくせに、遅れてきた幸司は雅紀に軽く会釈をしただけで、席に着いた。 向かいに座る雅紀の顔を見ると、微かに笑顔を見せた。 待たせたことの詫びを言付けるぐらいだから、少しは悪びれた顔でも見せるのかと思ったが違った。 むしろ、雅紀の反応を楽しんでいるような余裕の笑みだった。 雅紀は、自分の神経が刺々しくなっていくのを抑えられずにいた。 会議中、横を向いた幸司の首に、紫色に変色した小さな楕円を見つけてからは、その刺がチクチクと攻撃性を持った針に変わっていくのが分った。 |