獣以上 16獣以上目次

「ただいま」
「お帰りなさい」

 出迎えたのは、千明一人だった。

「…仕事の邪魔をして…ごめんなさい」

 シュンとした千明の頭部に、雅紀が手を置いた。

「いや、千明からの久しぶりの電話に、興奮したよ」

 ポンポンと笑いながら、かつての主としての余裕を見せた。
 だが、実際、雅紀の心臓は、雅紀の息の根を止めるのではないかというぐらい、激しくビートを刻んでいた。

「幸司は?」

 まだこの家にいることは、見覚えのない靴で分っていた。

「おじさんの部屋です」
「連絡ありがとう、千明」

 雅紀が自分の部屋に向って歩き出した。
 すると、千明が

「待って、おじさんっ!」

 と、雅紀の腕を掴んだ。 

「隆司の所に先にお願いしますっ。僕に何も言ってくれないけど、おじさんになら」
「千明、それは違う。隆司に今必要なのは、千明だよ。俺があいつに話すことは何もない。震えているなら、千明が抱き締めてやりなさい。俺が行くより、そっちの方が効果あるぞ。耳元で、『どんな過去があっても、愛してるから、僕を信用して、』って言ってやればいい」
「それって…隆司と幸司さんとの間に何か問題があるってこと? おじさん、この前も二人の間にあったこと、教えてもらえって言ってたけど…」
「千明がいれば、大丈夫だ。俺が今、駆けつけたいのは、悪いが隆司じゃない。幸司の方だ」

 千明の指を一本ずつ外すと、雅紀は千明に「頑張れ」と言い残し、自分の部屋へ急いだ。

「…こう、じ…お前…」
「お帰りなさい、父さん」

 ベッドの中から、顔と肩を出した幸司が雅紀を出迎えた。
 下は見えないが、肌を露出した肩が、衣類を纏ってないことを物語っている。

「俺のベッドで何している?」

 我ながら間抜けな質問だと思った。

「ははは。見て分るでしょ。お昼寝です、っていうのは嘘です。待ってました、父さんを」
「裸で、か?」
「わかります? 全裸ですよ」

 艶っぽい視線を向ける幸司は、雅紀を誘っているとしか、思えない。

「何の為に」

 期待していいのか?
 お前が誰と付合っていようと、据え膳を食わぬような男じゃないぞ?

「大人になった俺を…僕を、味見してもらおうかなと思って…」

 ベッドから幸司がスルリと抜け出ると、雅紀の前に全裸の身体を晒した。。

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